Late confession

□08
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 ほんの少し。ほんの少しだけ、君の傍を離れた時の事だった。


「またねー!」


 走っていく男の子に向けて、彼女はそう言いながら手を振っていた。その男の子は見覚えがない。…まあ、彼女の友達を全員知ってるわけじゃないし、当たり前だけど。

 男の子は彼女をチラチラと振り返り、手も振り返しながら、そのうち見えなくなった。


「……今の、友達?」

「!わ、いつから…」

「少し前」



 見えなくなり、奏の手が下りると同時に声を掛ける。奏は僕の方に振り返ると幽霊でも見るかのような目をしたが、すぐに嬉しそうに、パンッと両手を合わせた。


「それがね、今、知り合った子なの」

「……は?」

「あたしが1人で居たから、ひまそう見えたみたい。俺もひまだから、よかったらって誘われたの」

「……」



 …それはまた、何と言うか。その男の子にしても奏の鈍さにしても呆れてしまう。


「…それで、何で行かなかったの?」


 人差し指と親指で眉間を押し揉みながら再び訊ねた。これからひまなのは本当の事だろうし、乗ってもよかったんじゃ?心なしか、苛立ちをかんじる。


「何も言わないで行ったらおこるでしょ?」

「まさか」

「それこそまさか!」

「…はあ。言ってなよ」



 言い負かす気すらなくなり、奏に背中を向けて歩き出した。一拍遅れて、足音が追いかけて来る。


「…それに。先に総司と居たし」

「でも。僕は君と遊ぶ約束したっけ?」



 横に並んで来ようとしたのか。タタっと速かった足音だが、それは並ぶ直前に失速した。僕も速度をおとしてチラっと奏を見ると、図星を突かれて何て返したらいいかと迷っているようだ。…たまにこうして素直になられたら、本当に困る。

 最近はあまりしなくなったけど、ケンカは殴り合いにまで発展する時もあるのに。こうして、同じ場所に居る僕達しおかしくない?心の中で、誰にともなく問いかけた。


「(……アホ面)」


 考えているうちに自棄になったようで、奏はあっかんべ等々とどうしようもない事をして来る。前ならこの顔にも苛立ったが、さすがに今はもう、構う事が情けない。


「…何処行くの?これから」

「…散歩かな」

「ひまなの?」

「そう言う事になるね」



 今日の稽古はおわったし、近藤さんは用事で出かけたし…何処かでのんびりとしようと考えた。1人で?…1人で…


「……ひまなら、来る?」

「へ?」



 何か言おうとしたみたいだったけど、僕の方が口を開くのが速くて、奏は口を開けたまま固まる。その姿を見てたらいろいろどうでも良くなって、プッと吹き出してそから奏の方に一歩ふみ出した。

 そして、その小さな手をとる。


「ほら、行くよ」

「わ、ちょ…!?」



 奏は転けそうになったが、僕は手を引いて歩き続ける。行き先はとくにない。でもそのうち、面白いものが見付かるかもしれない。否、見付けられなくても…


「……いいの?」

「行きたくないなら――」

「行く!!」

「……うるさい」



 君となら、時間はあっと言う間だから。



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