Late confession

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「――――!!!」


 あたしの口から、声にならない叫び声が上がる。この気持ちを何と表したらいいのでしょうか、考えるひますらない。

 アワアワと震える口で、あたしは何とか目の前の彼に話しかけた。


「おき、沖田君?!コレは一体…」

「次、左に曲がるよ」

「!!」


 でも話すひますら見付けるには難しい。話し掛けたのに遮られ、反射的に両腕に力が入った。その刹那、景色がぐるんと移りかわる。ぐるん、と。


「これくらいが気持ちいいでしょー?」


 正直言って、酔う。気を抜いたら口から何か出て来てしまってもオカシくない。だけど沖田君があたしの希望を聞き入れる気配はなく、クスッと楽しそうに笑われただけだった。


「それは、それはっスピードの話であって…こんなにぐるぐる角曲られたら気分悪くなるだけで、あって!!」

「何てー?風の音で聞こえなーい」


 ――んの人…!!

 沖田君の腰に回した腕がワナワナと震えるけど、何か有ったら(起こされたら)とんでもないのでさっきから腹の中で文句が層を作る。


「…沖田君、自転車とか持ってたのね」

「あれ?言わなかった?これは平助の、借りて来たんだよ」

「(風の音で聞こえないのでは?)」


 そう。あたし達は今、自転車に2人乗りをして宛もなく走り回っていた。こんな事になったのは、テスト期間は速く帰れると言っていた沖田君が、放課後のあたしの学校の門に現れた時まで遡る。


「…あ!待って、ムリ。これから美里と買いものに行く―」

「沖田君、奏の事を宜しくね♪」

「有り難う。今度、お礼するから」

「楽しみにしてまっす!」

「な、美里!(また友達を売るのか!)」



 近くに来るなり「これから付き合って」と誘われて、圧し負けて一度は首を縦に振ってしまったものの。先に美里と買いものに行こうとしてたから断ったのだが、何時かのようにまた見捨てられてしまった。

 て言うか美里も来たらいいのに!そんな声もスルーして、その背中は遠くなった。


「……何処へ行くの?」

「ん?…まあ、アレ。うしろに乗って」

「は?」



 …そして、今に至る。腰に腕を回して放さないようにと言われた時は、なかなか実行出来なかった。何故かって自転車に2人乗りですよ。腕を回す事は詰まる所、体が…くっ付くワケ、でして。よく少女漫画に見るようなその光景をイメージしたら、たまらなくハズカシくなってしまったのだ。


「…っはー、面白かった」

「…面白くなかった…」


 でも、そんな気持ちは何処かにいった。気にしてたらオワリな気がして、たまに「苦しい」と言われるくらい回した腕に力を入れた。

 たまにすれ違う人にポカンとした目で見られながら行われた走行も、沖田君の発言からして無事終了を迎えるようで…心の底から、ホッとする。


「ねえ、」

「…何?」

「少しはあるんだね、胸」

「………」


 ……ときめきって、何なんだろう。


「あはは!ザンネン、外れ」

「〜…!!」


 すぐに体を放して沖田君の足目がけて蹴りをくり出したけど、哀しいかな、読まれてしまった。蹴ろうとした足を宙にフラフラさせて楽しそうに笑うようすに「きぃ!」となる、また胸を押し当ててしまっては元も子もないので、腕に力を入れて苦しめてやる仕返しもムリだ。


「デリカシー!貴方はデリカシーの言葉をご存知ですか!?」

「ええ?何怒ってるの。別に、今のはホメ言葉でしょ」

「それでも安易に胸って言葉を使わな…て言うか今まで、胸が無いと思ってたと!?」

「……怒るトコ、そこ?」


 いつもの彼からは、正直、こんなにがっちりした体はイメージ出来なかった。細くなく太くない腰、捲られた袖から見える二の腕は程好く筋肉が付いていて、ああ男なんだなと思わせる。


「(まあ、剣道もしてるんだしね)」


 真面目にやってるのかな。そんな失礼な考え自分で笑ってしまっていると、キキッという音の直後に鼻が潰れた。


「〜!?」

「…このへんで、ゆっくりしよう」


 急に自転車が止まったから、沖田君の背中に突進したのだ。鼻に手を当てながら泣く泣くあたりを見回すと、犬の散歩をしている人がチラホラと居る、静かな土手に来ていた。

 人がたくさん集まる所に連れていかれると思ってたのに、まさかこんな所に来るなんて。その事にポケーとしているうちに、沖田君は自転車を下りた。


「行くよ」

「へ?…わ!!」


 そして、グイッと手を引かれる。鞄は自転車の籠に入れたまま、あたしも自転車を下りた。



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