Late confession
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「……ねえ、総司」
「何?奏」
「あたし、早死にするよね」
―それは、それまでしていた何の面白味も無い世間話とは、全く違う響きを持っていた。
「…は?」
夕日が差す川原。前触れが無さ過ぎる話に、隣に座る沖田は目を丸くした。どうしたの?とも聞けないでだまっていると。奏はほんの少しだけ迷ってから、手元の雑草を弄りはじめた。
「そう、おもわない?」
「……まあ、それを分かってて今があるし」
「だよね。実は昨夜、死にかけた」
「!!」
…唐突な告白が続いて、開いた口が塞がらない。まるで「いつもの事ですよー」とでもいう声音だが、京に来て、そんな話を聞かされた事は無かったのだ。
「……死に、かけたんだあ」
その口振りは、死を間近にかんじた人間の口振りとは思えない。何が有ったのか聞くべきなのかもしれないが、死にかけた話なんて「死にかけた」で足りるし、焦るようすが無いから、新選組に被害がいく事も無いのだろう。
フと。奏の手中の簪が、草臥れているように見えた。
「あたしさ。本気で、平気平気って思ってたのかもしれない」
「剣術には自信がある、もし何があっても斬り抜けられる…って?」
「少し違う。何て言うかな…危険な目に遭う事を、信じてなかったと言うか」
「?」
そこまで言って、一旦、言葉が切れる。言わんとしている事がイマイチ分からなくてそのまま待っていると、少しして、奏はパッ!と草の上に寝転んだ。
「あたし、皆と離れたくなくて来たんだもん。いつでも死ねる心の準備なんて……出来てるわけ、なかったんだよ」
そして、どこか可笑しそうに話される。
「いつ死んじまうか分かんねえぞ、その事を分かってんのか?って…土方さんに何度も言われたよ。でも、皆の力になりたかったのは本当だったし…大丈夫ですの一言で、答え続けてた」
「……」
「死んじまうかもって言葉を、信じられて…信じてなかった。そんな事あるわけ無いって、どこかで高括ってた」
しかし可笑しそうにするその姿は、どこか自棄を感じた。奏は目元に右手を置いて、簡単に聞きとれるくらい大きな呼吸をして…今度は呆れるように、ははっと笑う。
次には「でもさ」と言った声が、少し震えていた。
「…死にかけて、家にかえって…あたし、どうしようも無く、おびえてた」
ポチャン。近くで水が跳ねる音がする。
「甘く、見てたんだ。人の命をとるかもしれない。自分が死んでしまうかもしれない中で生きる事を…生きる事にした、皆の事を。本当、さいてーだよ」
「…奏」
所々で詰まるものの、口を挟むスキが無い。今どんな気持ちなのかは目を隠されていて読みとれないが、何となく、イメージ出来た。
――何言ってんの、本当にさいてーだね。
そんな風に言い返すのがいつもの自分である気はするのに、それは出かけてすぐ戻る。…調子が狂わされた。こうして素直に"弱さ"を見せる、奏に。
「!」
クイッと袖が引かれて、肩がはねた。
「……でもね。死にかけたから、気持ちを切り替えられたよ」
簪を持っている手で袖を摘まれる。一見控えめに思えるそれも、指先に力が入っているのが見てとれた。
「あたしよりも、いつ死んでしまうか分からない場所に居る皆の力になろうって…少しでも、皆が安全で居られるように」
自分が味わったからだろうか、奏の言葉に重みをかんじる。それを、何よりも引き立てているのは…みるみる震えを大きくする、その声。