アネモネ

□02
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「あー!赤司っち、何処居たんスかあ!!」


 そもそも、アンタが居てくれたらこの場も簡単におさめられたのに。プープーと文句を垂れていると赤司はすまないと笑い、保健室のドアをうしろ手で閉め、スタスタと中まで歩いて来た。


「必要になるだろうと思って、かえして貰って来たんだ。コレを」

「コレ?……ああ?!」


 そして、差し出されたものに声が出る。其所には、今生徒の手にあってはオカシイもの。先生から収された筈のオレのノート……つまり、あの子が書かれてあるノートが存在していた。何でこれを赤司っちが!?と聞こうとしたが、何でもこなしてしまう赤司にこの質問は愚問だろうと、ほかの皆も含めて突き詰める者は居なかった。


「涼太。開いてみろ、面白い事になっているよ」

「え?…面白い、事?」


 ポカンとして受けとった直後、言われた事にまたポカンとなる。面白い事、はて一体どんな事だろう。あの子がここに存在していると言う不可解な事かわ起きている時点で、面白いとおもえる事が有るのか如何か。でも赤司の言う事は「ゼッターイ!」である、大人しく手をうごかした。

 ………が。


「……………………ん?」


 『異常』…をかんじて、手が止まる。そんなオレの異変に気付いて、面白い事に興味を示した青峰がうしろから覗きこんで来た。


「ああ?何してんだよ」

「や、それが……ノート、見れなくて」

「……ああ?」

「っページ、捲れないんスよ!全部のページが、のりでくっ付いてるみたいで……何で?!」

「……。…アホな事言ってんじゃねーよ、寄こせ。オレが見てやる」


 ……コレが、赤司の言う「面白い事」?コレだとしたら面白い事ではない、軽くホラーだ。心底呆れたカオをして、ノートが青峰に奪われていく。と言うかここでもうオカシイ、ページが空気になびいてない。

 青峰は適当なページに目星を付けて、見てろと力を入れた。


「あ」

「………。ああああああああ!?」


 次の瞬間。ノートは音を立てて、半分まで破れた。


「何してんスか、青峰っち!!」

「ワリ、力入れ過ぎた」

「アホ!アホ峰っち!!」

「ああ゛!?ワリーつっただろ!」


 あわててノートをとり返し、悪化しないように、大事に両手にかかえて持つ。カっと目付を悪くする青峰だが、彼に反論できる権利は無い、こんな事をしてくれたんだ。黒子にたのんでコピーさせて貰うしかないなと涙して居ると、


「きゃあああ!!」


 すぐ傍で悲鳴がして振りかえる。そこでは桃井が口を覆って、少し青ざめていた。気分でも悪いのだろうか、つい先程までは元気そうだったのに。

 と。……よく見たら、黒子や緑間、紫原まで目を丸くして固まっているではないか。


「どうした、さつき!」

「あ、青峰君、きーちゃん!見て!!」


 異様な空気をかんじつつ、桃井が人差し指で示す先に目を向ける。そして、黒子達と同じ反応をしないワケにはいかなくなった。


「…っ、何スか?コレ…!」


 ドクンと、左胸が大きな音を立てて、息が詰まる。


「……分かりません。今見たら、体が透けていました」


 冷静にも聞こえる黒子の呟きを合図に、スゥーと全身が冷えていくのをかんじた。やっぱり、皆にも同じように見えてるんだ。

 桃井が透けている下半身に触れてみようとしたら、その手はあろう事かすり抜けて、シーツに辿り着いてしまう。それに茫然とする面子の間を歩いて、ベッドの傍に来ると、青峰は「生きてるか」としきりに彼女の頬を叩いた。

 ――"生きてる"か?


「止せ、青峰。悪化したらどうする?」

「……でもよ」


 ……ああ。生きてるか、だ。こんな事、人間だったら到底アリエナイ事である。だから生きてるとは多分若干、違う。青峰は其所まで考えてないだろうけど。

 だが。叩かれても、彼女は目を開ける気配はない。


「ど、どうしよう…!?」

「……ねー。もしかして、このままだったらさ」

「紫っち!!」


 不吉な事を言おうとした紫原をあわてて遮る。でもさ黄瀬ちん?と先の言葉を言いたそうにされ、分ってるっスよと、冷汗が頬を伝うのをかんじながら答えた。


「(そうだ。このままじゃ……死ぬ、事と同じだ)」


 死。間近にかんじた事がない、未知なるもの。未知だからこそ、コワくないし、とてもコワい。唯一この子の存在を知っているだろうオレ達が何とかしてやらないと、この子は居なくなり、オレ達の心には…わだかまりが出来てしまう。


「でも、どうしよう……」

「青峰君、何とかしてよ!」

「オレに勝てるのはオレだけ、なんでしょう?」

「ああ!?イミが違うだろーが!」

「お菓子食べれば元に戻るんじゃない?それか、医者呼ぶ?」

「戻るか!!それに、医者でもどうにもならないのだよ!」

「……落ち着け、お前達」


 オロオロ、オロオロと責任を転嫁し合う事しかできない中。場を静めたのは、やはり鶴の一声と言う名の赤司の一言だった。



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