Late confession
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――…その日の、夜。
あの唐突な出来事は忘れられる筈もなく、美里と別れたあともイケメンくんの姿が浮かんでいた時の事。あの制服、見覚えがある気がする。そうして電話を掛けた相手は、中学の頃の後輩だった。
「――千鶴ちゃんの先輩!?」
そして、衝撃的な事実が判明する。
うっかり大きな声を出してしまい「喧しい」と兄に叱られてしまったが、今はそれに謝っているヒマはなかった。千鶴は少しひるんだ雰囲気を伝えてから、続きを語りはじめる。
『剣道部の2年生でね。平助君とも、仲良しなんだ』
「…藤堂君、とも…」
イケメンくんの外見と印象を話したら、すぐ当てられてしまった。まさか、こんな近くに繋がりが有ったなんて。制服が同じだったようなと思ったのは間違いじゃなかったらしい。
『沖田先輩、今日は部活休んだみたいで…どうしたのかと思ったら、奏ちゃんの所に居たんだ』
イケメンくん…基、名前を「沖田総司」君。
沖田総司と何度も自分に繰り返してみたが、彼と出会った事は今まで一度もなかった。あれだけ親しげに話し掛けられたんだし、何か関係がないとオカシイとは思うのだが。
「…でも、あたし、知らないし…」
『…其処は、たしかにヘンだけど』
「けど?」
『沖田先輩、たまにヘンな事を言っていたから…』
「どんな?」
『捜してる子が居るんだ、って』
途端、意味もなくドキリとしてしまった。更にオカシな話になって来ている、沖田は夢でも見ているのではないだろうか。
『何も手掛かりはないけど、捜したいんだって。もしかして、それって…』
何を思ったのか、千鶴はそれから先の言葉を呑み込んだ。
言わなくても分かる。「奏ちゃんの事だったんじゃない?」と言いたいんだろう、誰でもそう考える。だが手掛かりがないのだったら何故、自分の捜している子だって分かったんだろう?どうして名前を知ってたんだろう。…事が判明したようで、肝心な所は判明していない。
「…なんだか、なぁ」
気持ち悪いとまでは言わないが、奇怪現象だ。
『で、でも、悪い人じゃないよ?…多分』
「多分の所が目立ってるよ」
沖田の話題を続けていたらパンクしそうになり、丁度千鶴も困ってしまった所でこの話は切り上げてみる事にした。ボフリとベッドの上に仰向けになり、隣の窓から見える夜空をながめる。
「…藤堂君、元気にしてる?」
『あ、うん!この前、部活でね…―』
それから、お互いの学校生活の事でもり上がった。
コワイが実は優しい不器用な先生や、女子にとても人気のある美形の先生。イイ人だけど何処か残念な先生や変わった生徒会長等、楽しそうで羨ましい話をたくさん聞く。こっちも面白い先生や生徒が居るんだよと話してた所で、随分時間が経ってしまってるのに気付いた。
「…いけない、もうこんな時間だ。ゴメンね」
『ううん。まだ話したい事あるのに、時間経つのは早いね…そうだ。平助君も誘って、今度3人で遊びに行こうよ』
「イイね!丁度連休近いし、お互い行き先考えとくって事で。打ち合わせはまた改めてしよう」
『うん、わかった。じゃあお休みなさい』
「お休み。有り難うね」
少し名残惜しさを感じつつも、プチと通話を切る。そのまま携帯を力なくベッドの上に落として、大きく溜息を吐いた。
「……沖田総司くん、か」
――貴方は一体何者なんですか、新手の詐欺か何かですか。ぐるぐると渦巻くのは勿論宜しい気持ちではなく、何だか不安になってきて、寝返りを打って枕に顔を埋めた。
もう、考えない方がいいのかも知れない。何方ですかなんて言ってしまったのだから、ワケが有るとしてももう会いに来辛いだろう、自分が沖田の立場だったら無理だと…思う。そう願いたい。不安を逃がすようにまた一度大きく、溜息を吐いた。
「ぅおーい、奏。風呂入れー」
「ノックしてから入れー」