Late confession
□02
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…と、そんなこんなの毎日だ。
「……はあ」
「奏ちゃん、大丈夫かい?最近パワフルさがないね」
「ああ、いえ、すみません」
バイト中なのにうっかり出るのはため息で、何度も先輩に心配されてしまう。ダメだと分かっててもどうにも抑えられないもので、どうせこのため息をガマンしても幸せという運気は有りはしないだろうなと悲観的になってしまった。
沖田は律儀に、あれから毎日迎えに来る。どんなに時間を変えてみても全て先回りされるし、部活が休みだという日は違う出口を使ってみるのに其処でも先回りされる。ここまで来るとホントにこわい。あのイケメン誰ー!?と女子の間でチョイチョイ有名になってるけど、いっそ彼が来たくなくなるまでとり囲んでやってほしい。
「よう、妹よ。毎日毎日、何処の男と登校してんの?」
「、」
「んまあ!何、アンタ彼氏出来たの!?」
「……サイアク」
家ではこの有りサマだ。なんとまあ、期待通りの反応をしてくれている。余程面白いのか、兄は携帯に着信が入る度に「おっ」なんて一々ふり返ってくる。こんなに喧しい事はない。
「お姉ちゃん、はい!」
「え?あ…はい、お預かりします」
モヤモヤしながらレジに立っていると、カウンターに一冊の漫画が置かれる。小学2年生くらいの男の子はルンルンと声をかけて来て、そのようすに気分も和らいだ。バーコードをスキャンして値段を出す。
「410円になります」
「これ、500円!」
多分、何か手伝って得たお金なのだろう。自棄にじまん気だ。プフッとついには吹き出してしまいつつも、その5五百円玉を丁寧に扱う。早く早くとソワソワして見てくる男の子に、お釣と共に漫画を入れた袋を差し出した。
「どうも、有り難う御座いました」
「わーい!!」
ひったくるようにそれを受けとって、走っていく男の子の背中を見送る。ああ子供って、ここまで心を穏やかにしてくれるのかあ。モヤモヤした気持ちは(単純にも)いつの間にか薄れていて、ファイト!と自分に向けて拳を突き付けた。
「……あの、」
「って、ハイ!」
「宜しい、でしょうか」
「え、ええ、勿論です!!」
そうこうして居ると、別のお客さんがカウンターに本を置いているのに気付かなかった。あわてて手にとった小説の内容は渋そうで、若いのにこういうのを読むんだと感心する。
「カバーはお付けしますか?」
「はい」
「畏まりました」
でも、キリッとした声もオーラも大人びていて可笑しくない。逆に言うと
学生からは近寄り難いかもしれないけど、実はこういう人が可愛かったりするである。
……お客さん相手に一体何を考えてるんだろう。
「…あの」
「はい?」
「……名前。香月、奏?」
――刹那。はじめて沖田と会った時の事が、脳内を駆け巡る。
「そ、そうですけど。…何か?」
どうして名前を知っているのかと言う事と、同じ展開になるのかと心なしか声に力が入る。ヘンな人なら早く帰って貰おうとカバーを袋に入れて、すでに提出されているスタンプカードとお金を受けとって処理していく。
しかし。こういう時に限って手元の調子は狂ってしまい、なかなか捗ってくれない。
「そうか。なら…俺に、見覚えはないだろうか」
やっぱりこのパターンですかと涙しつつ、今まで俯かせていた顔を上げた所で、ふと気付いた違和感に固まった。あれ?と疑問符が浮かんで、焦りも店員の仕事も何も忘れてしまう。
「間違いであれば、謝ろう」
「……」
じろじろ見るのは失礼だと思うが、見ずには居られなかった。多少声変わりをしているけどよく聞いてみると…聞いた事のある声。それに髪型と、佇まいというか雰囲気…さてどうして見覚え有るのかなと首を傾ける一方でポッと唐突に――2年程前の事を、思い出した。
フルフルと震える人差し指を、相手に向ける。
「、斎藤、一、くん?」
そう言うと、彼は微笑んだ。
「…ああ。久し振りだな、香月」