Late confession

□05
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「一君との待ち合わせは午後からだし、午前に会わない?いっその事、その時も化粧してくれないかな〜」

「すまんね、その日は用事が有るの」

「……」



 仕方は覚えたとは言え、新米な己の技術と見解には不安がのこる。しかし美里は良い返事をしてくれず、かわりに化粧道具をレンタルしてくれた。「明日テストするから復習するように!」との事らしい。そうして居たらあっと言う間に昼休みはおわり、午後の授業が始まった。

 校則には化粧をして授業を受けないとの文があるが、こうして、はじめて、校則破りを経験した。


「――お先に失礼しま〜す」

「ああ、またね。奏ちゃん」


 化粧をしているだけなのに、何時もと違う気分だった。それは表情にも出ていたのだろう、何かいい事あったの?最近お疲れみたいだったからよかったと言われ、自分は恵まれた所でバイトしてるんだなとじ〜んと胸を温かくした。


「あ〜、さむ……!」


 外に出ると、むき出しの肌(主に太股)を冷たい空気が刺す。冬が近くなると日が暮れるのも早く、なるべく明かりが多い道を選びながら帰る事にした。

 丁度部活おわりなのか、学生の姿がちょくちょく見える。それには色んな制服が有り、その中には自分と同じのも見たし…斎藤達と同じのも見た。


「まさかあれ、一君のコト?」


 フと、美里の言葉が甦る。


「……まさか」


 たしかに今思うと、何時から恋をしてないのかと訊かれて高校入学前の事が浮かんだのは否定しない。しかし男子なんかそこらに居るし、学校に仲が良かった男子が居なかったわけでもないし。単にそのころの事が印象にのこっていただけだと思う。が、客観的に見ると…


「……乙女チック、だよね」


 お出掛けするから化粧する、とか。ああけど、男の子と出掛けた事が今までなかったからどうしようと迷った挙句こうなったと言う可能性も有る。

 自分の事なのに分からなさ過ぎる。我ながらなさけないと、1人苦笑した。


「なぁ!まじで連れてかれんの?おごりなら喜んで行くけどさぁ…」

「ああ、まじだ。おごりだ。分からない所おしえただろ?付き合えよ」

「おい、教えたのは俺だろ」

「…生徒をメシに連行する先生とかアリなのかよ…」


 と、さわがしい男3人組が前方からやって来る。1人は制服1人はスーツ、1人は…何故ジャージ?外に出る時くらい、気を付けるべきではないか。話の内容と背丈からして先生だと分かる男性2人に挟まれて、制服の男の子は呆れたようにして居た。


「……あれ?」


 知らず知らず、その子をじっと見ながら足が止まる。この声には、覚えがある…

 すると何気なくその男子の目もこちらに向き、目が合った。しんと妙な雰囲気がながれたが、次にはあっと言う表情をして大きく手を振られた。


「奏!?おお、何だよ久し振り〜!」

「…藤堂君」


 何とまあ素直なカワイらしい反応に、無意識に手を振り返す。毎回思うけれど彼は本当にイイ後輩だと思う。まず最初に、雪村同様癒されるのだ。ほわわんとした気分をかんじてると、藤堂はタタタッと近くまでかけ寄って来てくれた。


「そう言えば、全く連絡してなかったよな…ははっ!全くかわんねぇ」

「人の事は言えないんじゃない?」

「俺は背が伸びてるし」

「(……カワイイ)」


 背が伸びたとか子供の言うような言葉に更に惹かれる。兄ではなく、こう言う弟がほしかったと心の底から思った。


「あ。て言うか…―ぐへ!?」

「何一丁前に他校の女子とよろしくしてんだぁ?にくいぞ、このこの〜」

「ちょ、苦しい!苦しいから!!」

「…新八、話してる途中に茶々入れる奴が有るか」

「そんな事言って、左之も弄れよ」

「違うから、奏は中学ん時の先…っ!」

「……はあ」


 しかし急にテンションを下げるからどうしたのかと首を傾げたが、藤堂は新八と呼ばれる人に後ろから絡まれてしまった。首をぎゅうぎゅうとされ、とても話が出来る体制ではない。ああけどたしか、この人達はごはんを食べに行く途中ではなかったか。なら早々に(誤解が大きくなる前に)離れようとするも、もっともな事を言う左之と呼ばれる人に微笑まれた。



「…悪かったな。ええと、もしかして…お前が"あの"奏か?」


 ――もうその展開はなんか嫌!

 容姿端麗なこんな人に微笑まれると胸はもうパニックだったが、そう訊ねられたとたんにすとんと気持ちは入れ替った。何故あたしの名前を知ってるんですか!ふるふると首を振りながら口にせず訴えると、彼はあわてて「悪い」と謝る。


「俺、そんなにおびえる事言ったか?」

「…別に…そうでは、ありませんけど」

「あー!左之さんがおどしてる!」

「しかも高校生の女の子を」

「声がデケェよ!本当に捕まる!」


 別に悪くないのに、くり返される謝罪は優しく丁寧で申しわけなかった。大丈夫だと返すのだが雰囲気が言葉に追い付けてなかったようで困った顔をされる。


「…それじゃ。お詫びにおごるから、一緒に食べに行くか?今の事で、ちゃんと話すし」

「へ!?そ、それは…」

「ああ、イキなり知らない奴からの誘いは気が引けるだろうな。けどほら、平助が居るだろ?これで妥協しねえか。まあお前が決める事だけどよ」

「……」


 奢りの言葉には少なからず魅力が有る。だが本人が言うように今見知ったばかりの人、しかも先生の誘いに乗るのはどうなんだろう。


「左之さんのはナンパまがいだからダメなんだよなぁ。そう言うなら俺に任せてりゃいいのに…」


 答えを出せずに視線を迷わせてたら、よし!と藤堂が手を打った。


「今からヒマ?せっかくだし、メシでも食べながら色々喋らない?」


 …その誘い方もナンパまがいな気がするが、知ってる相手に言われると多少印象が違う。名前を知られていた件も気になるし、せっかくなんだしとの事に頷いて同席させて貰う事にした。


「よしケッテイ!腹へった〜…」

「あの。奢り、なんですよね?」

「ん?ああ、新八のな」

「俺かよ!!」



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