Late confession
□EX:01
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あの日から、早くも一月半が過ぎようとしていた。
「…すみません、遅くなりました」
総司は出掛けたと原田に知らされてから少しして、雨が降り出した。最初の方は小降りだったそれは段々と強さを増して夜の視界を一段と悪くし、門限が近付いてもなかなか帰って来ない沖田を待つ面々の不安をも呷る。
変化が有ったのは、厳しい表情の土方を何とか宥めようと誰かが声を上げかけた時だった。
「総司、何してたんだよ!」
「はあ、焦ったぜったくよぉ…」
「傘くらい持てよ、風邪引くぞ?」
霧がかかった向こうからあらわれたのは待っていた人物で、一気に空気がなごむ。口々に安心したと伝えてる中でたしかに沖田は全身ずぶ濡れになっており、そのままではいけないと予め用意しておいた手拭を持って前に出た。
「…総司。何を、抱えてるんだ?」
だが其処で、沖田は傘が"差せなかった"事に気付く。何事もなく帰って来た事に気をとられて見てなかったが、沖田の腕には大き過ぎるモノが抱えられて居た。
白い布を被せられたそれは何なのか見えず、近藤の疑問を境に皆が沈黙する。
「……見せて貰うぞ」
――沖田は、何も言わない。
不気味とすら言えるその様子に、決していいとは言えない何かをかんじた。ザワとなる胸に手を添えて、雨に濡れるのも構わず進み出る土方と近藤の行動を見守る。
その周りには同じ気持ちで永倉や藤堂が集まり、沖田が隠れて見えなくなった。
「っ……!?」
布の下を見た者から、言葉にならない声が上がる。
「…総司。これは一体どう言う事だ?」
「…うそ、だろ…」
「……」
「総司!!」
雨の音をかき消してしまうほどの土方のどなり声が、この場に木霊した。けれど何も言わない沖田に苛立ちはじめている事が、後ろからでも肩が震えてるのが見てとれる。何が有ると言うのだろう?気になって仕方がなく、背伸びして、それでもダメなら輪に入ってしまおうとした…のだが。すっと視界が暗くなった。
「…原田、さん?」
「…千鶴、お前は見るな」
「え…?」
弱々しい声に、目隠しされた手をはらい退ける事が出来ない。
「…斎藤、今すぐ山崎と調査に出てくれ」
「…分かりました」
「後の奴はほかの隊士が来ねえように注意しろ。……弔いの、準備をする。千鶴は待機だ」
この手の向こう側で、あわただしく皆は動きはじめた。自分だけとりのこされて虚しさをかんじたが、土方の最後の言葉で凍り付く。
……弔い?
意味は、考えるまでもない。ゆっくりと手が退けられて開けた視界にはすでに誰も居らず、バタバタと足音が四方へ散った。棒立ちだった沖田も、そこには居ない。
「…奏が、居たんだ。あの下に」
唯一隣に居た原田の話に、あついものが込み上げた。
「…晴れて、よかったですね」
「うん。でも、荒れてるだろうなぁ」
「……」
新選組のために働いてた彼女が殺されたと言う事は、殺した相手にすくなからず情報が漏れてしまってるかも知れない。それを危惧して使い出された斎藤と山崎の報告は、全く心配要らないと言う事であった。
「…心配ありませんよ。奏、僕達にメイワクは掛からないようにしたって…最後に言ってました。酷い傷負ってるのに、何処にそんな体力有ったんでしょうね」
安心する所でも、当然幹部達の表情は浮かない。それをどうにかしてやろうとしたのか口を開いた沖田の調子は何時もと全く違って、結局、誰も話そうとはしないまま弔いが行われた。
「ここを上がった所に在るんだ」
「え?でも、周りは木ばっかり…」
「一君と山崎君を調査に行かせるくらい新選組に関わった子だよ?普通に立ててられないじゃない」
「……」
最近会いに行ってなかったと悔む藤堂、美味しい和菓子をごちそうすると約束をしたばかりだったと拳を握る永倉。何れこうなる覚悟はしてただろと言う土方の言葉を分かってても、暫くは唐突な彼女の死を信じられない雰囲気が暫く続いた。
彼女と話した数は両手で足りる程だが、その1回1回は濃く印象にのこっている。男所帯は苦労するだろうとか気を遣ってくれたり、近所でこんな事があったとかお喋りしただけだが、単に楽しかったし同姓の相手と言うのも嬉しかったのだ。
「あ!こんにちは、千鶴ちゃん」
沖田の後を付いて来て、辿り付いたのはポツンと立てられたお墓の前。それを目前にしたとたん聞こえた幻聴は、まるで同じ世界からして来るようだった。