Late confession

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「はい、お詫びにこれ。あたし、今日は1人で居たいから」



 そしてそれを差し出す。だがそれを何処に使うように言われているのか分からないようで、人差し指で頬を指してあげた。

 沖田は、言われた通りにハンカチで頬を拭おうとする。理由は告げたしこのスキにここを離れてしまおうと歩き出したが、案の定、ガシリと手首を掴まれた。自惚れたわけじゃないが、こんな簡単な別れ方では納得してくれないだろう。


「待ってた人相手に、それはないんじゃない?」


 …ホラ。がくり、肩が下がった。


「…あのね、あたしはメールを入れました。なのに来た沖田君の自己責任!」

「女の子の夜の1人歩きは危険だから、送ってあげようとしてるんだよ」

「この時間帯はまだまだ平気!」

「平気でも、せっかくなんだからいっしょに帰ろうよ」

「今日は1人で居たいって言った!」


 掴まれた手をぶんぶん振ったり自分の方に引いたり、色々な方向に引いたりしてみるが…放してくれる気配は一向にない。口ではもっとダメ、大人しく言う事を訊こうとする人間でもないはずだ。

 疲れて抵抗を怠ると、沖田はフと笑う。


「何で、1人で居たいの?」


 そして訊ねられた事に、口を噤んだ。


「…そんな日が有るのも、別に可笑しくないでしょ」


 話す気はない。そう気持ちを込めて返す口調は自分でも憎たらしかったが、はっきりして置かなければ、ずるずる引きずられてしまう。視界に同じ制服の女の子が映ると嫌でも甦るものがあり、知らず知らずため息が零れた。

 アンタが原因なの!…なんて言えたら、楽だろうか。


「まあ、可笑しくないね」


 言えないのは、少しこわがりな自分と。……彼を完全に嫌えない自分が居るからかも知れない。何だかんだで、「友達」と呼べるくらいに付き合いが長くなってしまったし。


「でしょ。なら、其処を察し…――」

「けど。待ってくれてた相手の気持ちに報いる余裕は持った方がイイよ」

「…な…」


 …今かんじた事を、こうかいした。


「どうしたの?なんて、皆が皆気にしてくれるわけないじゃない。せっかく待ってたのに何サマ?的に思う人も居るだろうし」

「……」

「あ、ちなみに僕は後者の気持ちが強いかなぁ。僕の勘違いがあったとしても、ゴメンも有り難うもないんだから」

「……」


 そうだ、たしかにその通りだ。何であれ待ってくれてた相手に対して何も言えてない。それは否定しない。申しわけないともおもう、…おもう。


「て言うか、1人で居たいなんて定番の誘い文句だよねえ。カッコ付けちゃって芸がな…――」


 ――パシン!


「…仕方ないじゃない。じゃあ、ほかにどんな言い方があるの」


 思っても結局は「ゴメン」も「有り難う」も出ず、かわりに出たのは掴まれてない方の手でのパンチだった。しかしそれは当たる前に受け止められて、乾いた音がむなしく目立つ。

 沖田は、さっきまでのバカにしたような雰囲気を消した。


「色々あったの、考えたいの!沖田君も少し関わりが有る事なのに、そーだん出来るわけないし!」


 くり出した拳は受け止められた手のひらにすっぽり収まって、語尾を強くするのと同時に力をこめるが勿論押し負けてくれない。疲れるだけで。


「ああもう何、ホント何!」


 何のいかりを何処にぶつけたらいいのか分からず、そのまま口に出して叫んだ。

 一気にまくし立てたオカゲで酸素が不足して、大きく呼吸をする。少しは落ち着いたが、胸のモヤモヤは健在だった。


「……ふぅん、僕が原因なんだ」


 そして、暫くして出た彼の言葉に今度は冷や汗を垂らす。


「あ゛…それは、発端のほんの一部分のようなモノで」

「一部分、ではあるんでしょ?」

「…ま、あ…」

「なんて言われたの」

「………」


 一気に勢いが消えた。言えるはずの文句は喉から腹の底に戻り、気まずさに目を背ける。打ち出した拳もおそるおそる自分の方に引き戻した。

 ああまた同じ展開。あの女子に言われた時のように、何も言えず…


「……はあ」


 呆れまじりに吐かれた息に前髪が揺れて、不安にも似た気持ちがふくらんだ。


「また呷んないと、君は喋ってくれない?」

「……へ」


 だがよく分からない発言に、視線を戻した。バッチリと目が合うと、沖田は眉尻をおとして困ったように笑う。


「それも、カッとなるように呷んないといけないなんて」

「……」

「原因が自分じゃない他の人に有るのに自分が何か言われたなら、少しくらいは当たっていいんじゃない?」


 その笑みが予想外で、目を丸くして凝視した。

 …つまり。本音であれ冗談であれさっきのは、私が本音を吐けるようにしてくれた事?そうおもうと、余計、どうしようもなくなる。


「…ま、それでも言いたくないならそれは多分。君のイイ所なのかもね」


 スと伸びて来た手が、ポンと乗せられて頭が重くなった。


「ちょ」

「何も言えなさ過ぎるのもメンドーだとおもうけど。相手を気遣っての事なら、少なくとも優しさだし」


 頭の上でぐしぐし暴れる沖田の手。全く優しくなく、文字どおりのぐしぐしで少し痛い。

――君のイイ所

 ホントにそうなのか。ただの弱虫なだけなんじゃ?それとも、弱虫が優しいとでも?全然まとまらないが、イイ所と言われて悪い気はしない。撫でられるのも慣れて来れば心地よく、ふしぎと抵抗は止まってしまった。


「……でも、1つだけ」



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