Late confession
□EX:02
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「…しかし、それで良かったのだろう」
随分放置していたお茶はすっかり冷めて、ぐっと一気に飲めてしまった。風にゆったりとながれる雲をながめる近藤に向け、首を傾げる。
「何だかんだでトシも言っていた事だが…総司と奏君は、あのままにして置こう。第三者である私達が、割って入るのは控えようとな」
「……どうしてですか?」
「総司はああ言う性格だからな。直球でものを言い合ったりする相手は珍しく、見てるうちにそんな友達も必要なんじゃないかと考えた」
「ああ…」
「まあ、殴り合いまで発展するとさすがに焦ってしまったが」
それはそうだろう、自分がそこに居たら多分見ていられない。例え子供だったとしても男の子対女の子なのだから。
「少し賭けだったようなそれも、その日からは心から良かったとおもえたなぁ。こう、何と言うか、雰囲気がかわったと言うかな…」
「ふふ、何となく分かりますよ。つまり私が知っている、沖田さんと奏さんの空気だったんですよね?そのころから」
「おお、そうそう」
肯定の言葉に、自分の知っている限りでの2人の光景を甦らせる。
普通に話していたのにちょこちょこ合間に入る言い合いには少し呆れすら覚えたが、こんな話の後だとかんじ方も違って来た。あれは「元気?」と相手の調子を確認するようなモノで、不器用だけど、あの2人の在り方なのだろう。
「……奏君は、逝ってしまったがな」
不意に、涙がまじるような音だった。
「…近藤さん…」
「何もおもってないわけがない。総司が気持ちを素直に表に出す奴じゃない事は分かっては居るが、逆にそれが…不安でな」
「……」
「…そうは言っても、男は、誰かの前で哀しみをなかなか見せられん。せめて、奏君を看とった時や墓参りの時にでも…気持ちを吐けて居たら、いいが」
近藤は昔話をした時とは全く違う沈んだ表情をして、組んだ両手を握り締める。亡くなってしまった人の話ではどうする事も出来ないと言うやるせなさを赤裸々に出して居た。沖田を弟のようにかわいがっていたのなら、奏は妹のようにかわいがってたのだろう。其処で起こった悲劇は辛いの一言では足りないはずだ。
かける言葉が、見付からなかった。
「(どうなんだろう、沖田さん)」
近藤の言う通り、吐けているんだろうか。墓参りに行った時「この話止めていい?」と言ったのは、泣きそうだったからなんじゃないか。考え出してしまうときりがなく、頭の中がぐるぐるぐるぐると巡る。
「…ははっ、すっかり沈ませてしまったな。すまん、あまり気にしないでくれ」
折角の茶と団子がまずくなってしまうと言いながら、大きな手にポンポンと頭を叩かれた。こんな時でも近藤の笑い声は雰囲気を和ましてくれるから畏れ入る。
「……そうだ!近藤さん」
「?」
「今度、おひまが有る時にお墓参りへ行かれては如何ですか?沖田さんと」
そうしてフと浮かんだ案は、いい提案だと我ながら自負した。
たしかに素直じゃない沖田だが、相手が近藤なら、何かしら素直になれる可能性は高い。そうでなくても、沖田にとって近藤と過ごす時間は嬉しいはず。
「そ、そうだな。そう言えば、ゆっくり墓参りにも行けていなかったな…だが墓の前で、何を話したらいいのか」
「考える事ないですよ。あんな事あったなとか、普通でいいんです」
「普通に、か」
「…そして、沖田さんの方から何か話し出したら聞いてあげたらいいんじゃないでしょうか」
「……ああ。ああ、そうしよう」
…役に、立ったのか。少し間を空けて、しっかりと頷かれる。おそるおそる伺い見ると、出来る事が見付けられたと言うように先ほどよりは凛とした表情が有って安心した。
近藤はよしと言って両頬を叩くと、湯呑の中身を一気にのみ下す。
「そうとなれば、また団子でも買ってこんとな」
「あ、お団子は沖田さんがよくお土産にしてるようですが」
「何?では、他のものにしておくか…」
何とかして明るくしようとする口調には若干心が傷んだが、局長だけではなく、他の隊士達もこうして身近な人間の死に慣れて行こうとしてるのだろう。
少しでも早く、皆が辛いカオをしないで彼女の事を語れるようになりますように…こっそりと手を合わせて、心から祈った。
唐突に出来た穴を塞ぐほうほうを捜して
「総司。今日の墓参りは、一緒に行ってもかまわんか?」
「え?あ…もちろん!かまいませんよ。けど、忙しいんじゃ」
「ははっ、なぁに。半日くらいどうって事はない。それに…奏君の墓参りには、ちゃんと行って置きたいからな」
「…はい。じゃあ、行きましょう」
「お2人共、道中気を付けて下さいね」
「ああ、後の事は頼んだよ。雪村君」
「行って来ます、千鶴ちゃん」
後日。肩を並べてお墓参りへに向かう2人の背中を、見えなくなるまで見送った。