Late confession

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 そう。"僕"はいつの間にか、あの子の事ならほかの誰よりも、分かる自信が有った。


「めーーんっ!!」

「……」


 久し振りにあんな夢を見たからか、竹刀を交し合う部活仲間の姿をながめながら呆ける。本来なら眠たくなるこの土曜の午前の時間も、全く余裕だ。

 宙を仰ぎ見て、"僕"の気持ちを考える。


「……本当、子供だよね」


 "僕"は、そんな事に気が回らなかった事だろうけど。夢の中ではあくまで第3者で在った僕からすると、あれは、笑ってしまう子供の言い合いだった。


「総司、そろそろあんたの番だ」

「……ああ、大丈夫。わかってるよ」


 クスッとうっかり笑った所に、今ほど打ち合いを終えた斎藤が目の前まで来た。笑った所を見られたか、何かあったのかと訊ねたそうな目をして居る。

 話してしまおうかと口を開いたが、…少し勿体ない気がしてすぐに閉じた。夢の事を詳しく誰かに話した事はない。


「そうだ。ねえ、部活の後はヒマ?」


 寄り道しながらかえろう。こんな誘いは珍しくなくて、今日も1つ返事でオーケーしてくれると思っていた。けれど一体どうしたのか、斎藤は目をまん丸にして固まる。何かヘンな事を言った?と目で訊ねると、一拍遅れてハッと我に返った。


「…すまない。用事が、有る」

「寄るトコ有るなら、付き合うけど」

「違う、来週はテストだろう。…それに備えたい」

「うわ!出た、ホント真面目だよねぇ。そう言う事なら仕方ないか」

「……すまない」


 ――なんか、ヘンだな。

 普通なら「あんたも備えたらどうだ?」の一言くらい有りそうだが、素直に詫びられるだけでそれらしい雰囲気はない。総司!と呼ばれたから詮索はしないが…まあ、いいか。


「大人しく、ぐーたらしてよっと」


 かわりにある1人の名前が過って、メールを入れてみようかと思ったものの何だかそんな気分じゃなく。今は竹刀を振る事だけに集中する事にした。







「……よかった、間に合った〜」


 大体の人が休日なだけあって、何度も接触しそうになりながら人混みを進み、待ち合わせに指定された花時計の前に来た。辺りを見回しても斎藤らしき姿はなく、ホッと安堵する。第一!時計を見ると、予定の13時より7分早かった。

 しかし焦った。準備に手間どったから、遅れてしまうかと…。


「特別な日になかなか決まらないって言うのは、こう言う事なんだなあ…」


 何を着るかは昨日のうちに決めていたのだが、保管の仕方が悪かった。さあ出発の準備!という時にシワシワになっているのが判明し、其処から大慌て。こっちは真面目にオカシくないか聞いているのに兄は「ああ〜…問題ナス」と適当だった(まあ、叩き起こしてしっかりした評価を貰ったのだけれど)。


「(お金は、ある。…ノートも、ある)」


 肩にかけた鞄の口を開け、大して何も無い中身を点検する。ノートは、返したかったあのころからふくろに入れてあり、保存レベルは申し分ない。おそらく。

 斎藤からメールは無かったし、遅れる事はないのだろう。時計は丁度1時を指す手前で、何処かに腰かけて待とうとしたが止めた。きっちりした彼の事だから、1時になると同時に来……



「香月、待ったか?」

「わはあ!?」



 ――たりした。それも視界に入らない背後から声を掛けられたから、ヘンな声は出たし大きく肩が揺れる。言うまでもないが、通行人の注目がサッと集まった。


「……何故そのような声を出す」

「は、一君…!」


 そんな通行人達に向けて軽くお辞儀をしながら言う斎藤に、貴方が原因だよ!と内心ツッコんだ。兄のイタズラで気配の察知には自信が有ったのだが…気配を消すのが、上手い。

 だがmそれに本人の自覚が有ったかどうかは分からないし、存在が薄いと言う意味に捉えられたらたいへんなので言わない事にした。

 すると、ふっとイイにおいが鼻をくすぐる。


「…それより、昼食はすんだか?」

「昼食?あ、…わすれてた」

「……丁度よかった。来る途中でこれが売られていたから、買って来たんだが」

「コレ?」


 言われてはじめて、お昼ごはんの存在が甦った。そうしたらお腹が空腹でだとはっきり主張し始めて、ぐぅと自分だけに聞こえる音がする。聞こえないように祈りながら、コレと差し出されたふくろの文字に目を通した。


「……あ!たこ焼き!!」


 それは大好きな食べものの名前で、声の調子が高くなる。ホカホカなのが湯気から分かり、斎藤がパックを2個とり出すようすを目で追いかけた。


「ああ。…前に、これが好きだと俺に話した事があるだろう」

「あ!あるある!覚えてたの?」

「あんなにペラペラ話されては忘れられん。…あんたの分だ」

「有り難う!…あ、お金」

「気にするな。あのベンチを使うぞ」

「へ?ちょ、一君…!」


 まるまるしたその姿が現れた瞬間は、美味しそうの一言に限ったが、あわてて財布を手にとる。何円したのか聞こうとしたがサッサと打ちきられてしまい、2人用のベンチを目指して背を向けられた。

 あとに続きながら、いくらしたか何度も聞こうとしたが、全て喉で詰まってしまう。聞いても軽くながされるだけだろうし、嬉しさが「奢られてしまおうか」と言う気持ちに火を点けた。タダでお昼が食べられるからとか、そう言うのではない。そう言うのではなく、単に…嬉しかった。


「……気を付けて持て」


 ベンチに座ると、すぐに差し出された包みを両手に受けとる。並べられている丸々なたこ焼きのうち、左上のものに爪楊枝を刺して口元まで運んだ。


「それでは、早速……」

「待て。香月、1つまるまる一気に食べる気か?」

「へ?な、なんか、イケナイ?」

「出来立てのものを一気に食べるな。…冷ましてからにするか、半分にするか。どちらかにした方がいい」

「…わ、わかりました…」


 しかし、1口で食べる計画は見事に失敗した。貴方はあたしのオカンか?!そう聞きたかったが、自分の発言は守って律儀に冷ましてから食べる姿に、先に笑ってしまう。

 何故笑う?そんな目を向けられたので、何でもないとはぐらかしてから爪楊枝でたこ焼きを必死に半分に割った。


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