Late confession
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「……あ〜、ん!」
―ホカホカだったたこ焼きも、そのうちまるまる1個を1口で食べれるくらいに冷えてきた。名ごり惜しいが、食べごろな今のうちにとラストのそれを少しながめてから、ぱくっと口の中に放り込む。
外皮のカリっと言う焼き具合、濃く過ぎでも薄過ぎでもない絶妙なソース。これを作った店主の腕前は、かなりのモノと見た。
「ごちそうさまでした!」
「…本当に、美味そうに食べるな」
「本当に美味しかったからだよ」
「…そうか、それは何よりだ」
先に食べおわっていた斎藤は呆れた表情だったが、美味しかった事を告げるとうっすら口元に笑みを浮かべる。
部活がおわった後に来ると言った彼だが…彼の服装は、制服ではなかった。制服で来るだろうと思っていたから、久々に見る私服に見とれてしまう。今時の高校男子と言うほどのファッションではない所がまた、彼らしい所だった。
「あ!そうだ、例のモノ!」
其処で、今日の本題を思い出す。鞄の中からシンプルな青のふくろをとり出し、胸の高さに差し出した。
「コレは?」
「返すって言った、2年前のノ−ト」
「ああ…そうだったな、有り難う」
まるで忘れてたと言わんばかりの返事だったが、ふくろを受けとると斎藤は中のノ−トをとり出した。"斎藤 一"と名前が書かれた表紙を前にして「なつかしいな」と呟かれる。別に、日記のように楽しい事は書かれていない。書かれているのは難しい公式とか文法とか、教えて貰う時に付け足された赤の殴り書きとか。
そんな、頭がイタくなるような事だけ。けれどあたし達には、それが思い出の形だったのだ。
「…香月は、英語の理解が絶望的だったな。何度説明しても、その度に新しい間違え方をあみ出して来た」
「そ…そう、でしたネ」
「なのに居眠りをしている時が有って…全く、何度起こしたか」
「(起こして貰ったのに、2度寝してしまったあたしをまた起こした時の一君のオーラは忘れられマセン)」
「…高校ではどうだ?」
「……」
「……はあ」
ペラペラとページを捲る手を止めて、なやまし気にため息を吐かれる。だが苦手なモノは仕方ない事でしかない、自分で克服しようとしても、今言われた通り新たな間違いを作り出す奴なので全く改善されない。寧ろ酷くなる。
「……分からなくて本当に困るようなら、声をかけろ。教えてやる」
「!ホントに!?」
「ああ」
「あああ有り難う!よかった、クラスに英語が出来る友達居なくて。先生もこわい先生だからどうしようもなかったんだ〜」
其処に差し出された、まさかの最高級のすくいの手。この手は本当に信じられる手で、うたがう余地すら無い。
これからは、大量に発生する英語の誤答ノートもおそろしくない。両手を万歳の形に挙げそうな雰囲気を無視(慣れてるカンジ)して、斎藤はノートをふくろの中に戻した。
「…だが、それが出来るようになるのはテストがおわった後からだ。部活も再開する、時間はなかなかとれないが」
「……あ!そう、テスト!よ、よかったの?テスト期間にこんな…」
「問題無い。…部活の後にすぐテストに備えると言うのも、なかなか集中出来んからな」
「……」
…彼ならそんな事はないだろう。前後に何か有ったとしても、しないといけない事ならきちっと気持ちをきり替えられる人だ。気を使って言って貰うのは申しわけなかったが、今日を楽しみにしていた事にはうそを吐けないから。深く追求しない事にした。
「…テスト期間なのに、部活が有るんだね。大会近いの?出るの?」
「ああ。…たしか平助とも知り合いだったな?平助も出る」
「わ、1年なのに?!後でメール入れとこっ」
「それと、総司も出る」
「!」
友達が大会に出ると言うのは、なんだかこちらまで嬉しくなってしまうものだ。自分の事のようにわくわくと耳を傾けていたが、不意に出た名前に、たこ焼きの空のパックを持った手の力が抜けた。
膝の上に在ったから、傾斜に耐えられなかったそれはポトンと脇に落ちてしまう。こんな反応はふしぎだったろう、斎藤もきょとんとして居た。
「…あー、そっか。沖田君もか」
同じ剣道部なんだったっけ。自分でも分かるくらい気の抜けた返事に、さすがに「ヘンだ」とおもわれたか、目で何か有ったのか?と聞かれた。
「ああ〜…ええと」
「……」
何か有った…わけでもないし、無かったわけでもない。これは自分だけが気にしている事だけに、話し出し辛かった。けど、誰もがこの人にならと思う誰かが居るように、あたしにとってのそれは…斎藤だったのだ。
妙な事を聞くけど、と前置きする。
「一君は、……前世は信じる?」
「………は?」