Late confession

□08
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「あ゛ー。午後にもテストがあるなんてまじオカシくなりそう…」

「ああ、それは言える。ひまだよね」

「…まさか、未回答のまま提出していないだろうな?」


 午前のテストがおわって、今は昼休み。一君と学年の違う平助と待ち合わせて、中庭で昼ごはんを食べて居た。

 話題は勿論テストの事。まあグチを零しているのは平助くらいで、僕達はとくに気にしていない。のこりのパンを、一気に口の中に押し込む。


「大丈夫、居のこりにならないようにはしてあるよ。部活の時間に支障が出たり、下校の時間が遅くなるのはゴメンだし」


 古文のテストには落書したが、答えは書き込んであるし採点しないわけには行かない筈。落書に対するイライラと、それでも採点者の立場に揺れる古文担当の教師を想像するとわくわくした。


「……何を企んでいる?」

「企む?どうして」

「企んでいる時の目をしている」

「そ?気のせい気のせい」


 多分、見当は付けた上で一君は訊ねてきたが、正直に話すとネチネチ説教されるのは目に見えているから言わない。

 イチゴ・オ・レを半分までのみ干して、雨を降らしそうな雲が漂う空を見た。


「……ま、テストの時は早く帰れるのが嫌なんだよねえ。今の僕には」

「えー!何でだよ!テストは明日もあるし備えなくちゃいけねーのはたしかだけどさ、速く帰れるって何かテンション上がらねえ?」

「上がるよ。上がるけど、僕には都合が悪いんだ」

「都合?」


 弁当は食べたのに、今度は焼きそばパンに手を付けながら、平助はきょとんと目を瞬かせる。


「奏…ちゃんの、時間に合わないから。速くても困るんだよね」


 でもこう言うと、すぐ「ああ」と納得された。若干、呆れまじりで。

 奏と会えるのは朝と、部活が休みの日くらい。それなのに奏に用事が有ったりするから、学校が違うと本当に困る。


「……香月には、何が目的で近付く?」


 と。少し間を置いてからの、一君の唐突な質問に、出掛かったため息が喉で詰まった。何が目的って…どうしたの?一君はお弁当を風呂敷に包み、目を合わせてきた。


「捜してる子が…と言う発言は何度も耳にしたが、何が目的なのかは、きちんと聞いていない」

「あ、俺もない!」


 …ストローを咥え直して、別の方向に目を背ける。一君は無言で先を促すようにしてくるけど、平助は「なあ!」と一言二言多い。

 何度か話そうとはしたけれど、話しかけて、話す事はなかった。吸う力を強めると、甘ったるさが口の中に広がる。面と向かって聞かれたのははじめてのような気がして、ふと考えこんだ。


「今言おうとした事、何時か聞かせて」


 夢の中の"僕"。"僕"は、呼吸をしてない"彼女"に向けて必死に声をかけていた。あの時の"僕"の気持ちは、祈りは、僕にははっきりと分かって忘れられない。"僕"と、"彼女"だけの…

 ああ、そうか。これは"僕達"だけの事。何となく言わなかったのは、そんな括りが有ったから。ペラペラと話してしまえるわけがない。



「……まあ、いつか、ね」



 案の定、平助には「え〜!」と言われた。一君は何も言わないが、何か言いたそうだ。やはり納得いかないと、何があるんだと今一度訊こうとした時。元気が良過ぎる声が木霊した。


「おお、お前等!こんな所でメシ食ってんのか。さむくねえ?!」

「…お前はもう少し着込め」


 ドカドカ歩み寄って来るのは新八先生、その後ろに居るのが左之先生。2人が来た事で僕達を中断せざるを得なくなり、そっちに体ごと振り返った。


「何してたんだ?」

「とくに何も。食べながら、世間話してただけですよ」

「ほお、そっかそっか。それなら斎藤にちっと聞きたい事があるんだけど、割り込んでいいか?」

「!俺に…?」


 新八先生は何故か面白そうにしながら、僕と平助を通り過ぎて一君の肩に右腕を回す。一君はきょとんとして、でも拒否する事もないから首を縦に振った。


「…新八。お前、まさか…」

「斎藤!お前、土曜日に奏ちゃんとデートしてただろ?」


 そこへ焦ったように左之先生が声をかけたが、間に合うわけもなく。新八先生の発言に、しんと空気が静まり返った。



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