Late confession
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「夕方の川原って、好きなんだよね。何て言うかさ、落ち着かない?」
「……まあ、それは分かりますが」
あたしも、下校の途中で寄り道しに来たりするし。そのへんに座る沖田君に頷きながらも、気持ちは何だか複雑だった。
沖田君はどうして、いきなりこんな所に連れて来たんだろう?それだけが気になって、素直に落ち着けなかった。
「何してるの?座りなよ」
自分の隣をチョイチョイと指される。それに従うべきか迷ったけど、このまま居るわけにもいかないので大人しく従う事にした。沖田君の座った所は石作りで、スカートが汚れる心配もない。
「あ」
「?」
「…あの子、見てて。大体あのへんで、何時も転けるから」
「……え?」
と、座りきる前に少し離れた所を示される。見るとそこでは、男の子が自転車の練習中で、予言?があった直後…本当に、転けた。
「あ、あたし!行――」
「大丈夫大丈夫。見てて」
あわててかけ出そうとしたけど、制服の裾を掴まれて止められる。ケガしてたらどうしようとオロオロしたが、ふと別の男の子が映って目を奪われた。
年上のように見えるその子は転けた男の子にかけ寄ると、その子と自転車をたすけ起こす。転けて泣きそうになってるところに「泣くな」と言い、汚れを払った。
「……兄弟、かな」
「そうだろうね」
何とまあ、微笑ましい光景だろう。ぐしぐしと目元を擦ると、練習に戻る男の子。ファイト!とテレパシーを送りながら、すとんと座り直した。
「…もしかして、あれを見せたかったの?」
「まさか。…ああでも、半分、そうかもしれない。今日も居るかなって思っただけだけど」
「?」
…微笑ましく見てたのは、あたしだけではなかったようす。振り向くと沖田君の口元は弛んでて、こんな表情をするんだと少し見とれてしまった。
「…僕もさ。あの、兄の男の子のように、傍で剣道を教えてくれる先生が居るんだ」
「永倉先生?原田先生?」
「あの2人も悪くないけど、違うよ。僕が言ってるのは、校長先生のコト」
「こーちょう!?」
ンな!と口が開く。あたしの校長先生に対するイメージと言ったら、出張とかで生徒と接する事があまり無い上に、集会で話が長いために「はあ」と煙たい反応をされる人なのだが。とくに沖田君は煙たがると思ったから、その言葉には正直おどろかされた。
あたしの気持ちが分かったのか、沖田君はくすと口元をゆるませた。
「近藤先生って言うんだけど。本当、校長先生っぽくなくてさあ。ほかの仕事も忘れて生徒達と夢中になってるから、よく職員室を困らせてるんだ」
「…いいの?それ…」
「大丈夫。それでも仕事はする人だし、逆に先生達の間に結束を生んでるカンジだし」
「…はあ…」
……全くイメージ出来なかったけど、はっきりしてる事はある。それは、
「(…沖田君、楽しそうに話すなあ)」
その近藤先生という人の事が、沖田君はホントに好きだと言う事。信頼と尊敬に目を生き生きと光らせて、一寸の迷いもない。そこまで引き付けられる先生とはどんな人なんだろう?興味が湧いてくる。
つられてあたしにも、笑みが浮かんだ。
「あははっ。そっか、沖田君の所はそんな先生が居るのか〜」
「初耳?」
「勿論。そんなふうに沖田君が話した事って、今まで無かったし」
「…そう。そう、なんだよね」
いつもはあたしが色々訊かれて、それに答えるだけで。それとは違う事と言うと例の前世がどうのこうのよく分からない話で。沖田君は1人言のようにアッサリ肯定すると、いつの間にか居なくなった男の子達が居た所を見た。
「…だからこそ。今日は少しでも、僕の事を知って貰おうかなって」
カアカアとなくカラスが、夕方の雰囲気を一層深くする。