Late confession

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そして時は過ぎ、剣道部の練習試合当日。


「…まじで来てしまったよ、あたし」


 指示された通り、両手にはお弁当が入った鞄を持って(勿論ほかの皆の分もあるけどね!)沖田君が通っている高校まで来ていた。この高校はあたしの通学路と反対に位置していて、新鮮な気持ちで校舎を見る。

 …て言うか、出迎えに来てくれるんだろうな。

 来てくれるよね?よね?…アタリマエだよ誘ったのはあっちだし!来るよ。来る、よね?そのへんの打ち合わせが曖昧だった事にうな垂れた。


「本当に来ちゃうなんて…正直、自分でも思ってなかったしなあ」


 何故と言われたらそれは困る、あたしもこの気持ちは表現出来ないからだ。来てねって言われただけで、返事はしてなくて…断る事も出来たけど。藤堂君達も来いって言ってくれて、もんもんと迷った結果が今である。


「……」


 ――無責任だよね。なんか、さ。

 「門の所に居ます。」とメールを打って、宛先を指定する作業で指が止まる。何処からか力強い生徒達の声が聞こえてきて、これが剣道部なら沖田君は携帯を見るひまなんて無いだろうと思った。どうしよう?1人で入って許されるんでしょうか。


「し、失礼しま〜す」


 声に導かれるようにして、あたしは門の中に足をふみ入れた。違う高校ってだけでこんなに入り辛いなんて……少し、わくわくして来る。イタズラっ子の気持ちとでも言おうか。

 グラウンドでもたくさんの部活が集まっていて、青春してるなあと見入る。皆がそれぞれに夢中で、あたしには気付かないようだった。何処の子って聞かれたらどうしよう、剣道部の試合の敵校の生徒と答えて置くのはどうだろう。


「……あそこかな?体育館は」


 まあ何か言われる前に、沖田君じゃなくても知ってる人を見付けよう。そうして、歩く速度を速めようとした


「待て、そこの女子」

「!!」


 …その時。大きくも小さくもなく、ただ迫力のある声が背中を刺した。もしかしなくてもあたしの事だよね?おそるおそる振り返る。


「……お前、何処の生徒だ?」


 その先にはスーツの男性の人が1人。眉間に深くしわを刻んで、こちらにゆっくりと歩み寄って来る。凄く男前の、先生…かな?でも凄く、コ、こわい。

 や。そもそも、二言目には何処の生徒だって聞いてくるなんて、彼は自分の生徒達を皆覚えているのか。


「あの…今日ある剣道部の試合の、敵校のマネをしてま―」

「マネだ?…妙だな。お前んとこには女のマネは居ねえって話だったし、何より1人で来たのか?入り時間は1時間も先だろうが」

「(……!!)」


 ――し、しまった…!!


「……ここで、何をしてる?」


 男前先生の声が低くなる、眉間のしわもそれはもう深くなる。120%うそは見抜かれてる!何を言っても逃れようがない早くも危険な展開に、あたしはハッ!とした。


「あ、あの!それは」

「……」

「それは、剣道部の沖田と言う人―」

「トシ!何をして居るんだ?」


 きちんと予定を立てていなかったあたしにも責任はあるけども、一番は言うだけ言って大切な所をすっぽ抜かした沖田君に問題があるから、名前を出そうとした。

 でも、それは違う人の声で遮られる。


「早くしないと、試合の準備に間に合わな……ん?その子は?」

「ああ、近藤さんか。他校の生徒みてえなんだが…、入り込んでうろうろしてたからな」

「何?…君、そうなのか?」

「……」


 (大人)2対1なんて酷過ぎる!すっかり勇気も萎んでしまって、じっと向けられる視線に小さくなった。


「!すまん、そんなに怯えないでくれ。理由があって、うろうろしていたのではと思ってな…」

「…え?」

「近藤さん!またそんな甘ぇ事を…」

「だがな、トシ。トシが思っている事をするような子に見えるか?無断で入った事を叱るのは、理由を聞いたあとでも構わんだろう」


 そんなあたしを見て、本気で焦りはじめた「近藤さん」を目を丸くして見る。安心させようとしてか向けられた表情はとてもあたたかく、フッと肩の力が抜けていった。


「……はあ。好きにしてくれ」


 すると、仕方なさそうに「トシ」さんも許可してくれた。近藤さんは満足気に頷くと、さあとあたしを促す。

 チラリとトシさんを見てみたら、先ほどまでの威圧感は何処にもない。近藤さんの説得力が大きかったという事なのかな?……ん?近藤、さん?


「…その…剣道部の沖田って言う人に、話は付けておくから、今日の試合を見に来るように誘われたんです」


 不意にかんじた引っ掛かりをそのままにして、あたしは理由を話していた。



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