Late confession
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「怖がってるひまは無い。あたしにしか出来ない事も有る筈だから、…皆の力になれるなら、あたしだって…」
――しかし、そこで言葉が切れた。
チラッと目だけで見てみると、奏が下唇を噛んで何かに耐えているのが分かる。何故そんな事をしているのかは「わかる」ものではなく何となく「かんじる」もので、自分にだけ聞こえるため息を溢した。
「……奏」
「……」
返事は期待しない。でも構わない、あくまで自己満足の話だ。
「…今ならまだ、普通の生活に戻れると思う。今の生活は誰も命令してないし、皆も望んでないと思う。後戻り出来るし、多分…していい事だ」
「……」
「奏が女の子って言う事は、変えようがない事だしね」
同じ場所で剣術を学んできたのに奏は怒るかもしれないが。女って言うのはやはり、男とは違う生活を送れる…送るべきだと、近藤さんは言っていた。
ほんの少し、少しだけ…今はその言葉の気持ちが分かる…気がする。
「……ここまで来て、それは無いって」
だが、すぐに否定された。
「…早死にするよねって言ったのも、腹は括れてる証拠」
「それを、僕に話す必要があったの?」
「……分かって言ってる?」
「さあ?」
そんなの、訊くまでも無い事だろうに。僕達は今まで、たくさんケンカをしてきたしたくさん言葉を交わしてきた…オカゲで、お互いの事を分かりきってしまってる。見えてはいないだろうが口元だけで笑うと、袖を掴む手が離れた。
そして、
「……」
体を支えてる右手に、ポンッと手が乗ってくる。
「…何?」
「…少しだけ、こうしたい」
――昔、奏が家出をした日の事を思い出した。
普通の女の子として生きていくか、剣術を学んで少し外れた道を生きていくか。そんな事であの日の奏は彷徨っていたが、今は、あの日とよく似ている。
「……好きにしたら」
違うのは、今の奏はもう答えを出している事だ。出ているが、その答えが本当に本当になるのは…多分明日からだろう。
「……うん、好きにする」
そう言って奏は寝返りを打ち、右腕に抱き付いてきた。その時はさすがに目を隠していたた手は外れていて、表情が見える。
もう、涙はガマンされていなかった。
…僕達は、死を全く恐れないわけじゃないけど。言い方はおかしいが、不逞浪士との衝突で"慣れ"てしまっている。今死ぬかもなんて、いつでも覚悟の上だ。そんな僕達からしたら、奏は然るべき然るべき事を言っているわけだが…
「……おつかれさま」
――僕に言えるのは、これくらいだ。
「………ん」
「僕が守る」なんて口が裂けても言わないし言いたくないし言われたくないだろうし。ムリはしないで本来の生活に戻れって言っても、それはそれで落ち込まれるか意地を張られるかだし。そう言う事なら、
奏がしたいようにさせて支えるしかない…って、そう思った。
「……ね」
「何?」
「………何でもない」
「……そ」
僕達が来たころは夕暮れだった空は、もう暗くなろうとしていて、人の気配も消えようとしている。動かないのは僕達だけで、でも時間は着実に進んだ。
……奏が手を離したら、家まで送ろう。僕はゆっくり、目を閉じた。