Late confession
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――あれから、5日後の放課後。
『保健室に入るなり、まさかあんな所を見せられちまうなんてな。ははっ』
「はは、はは…は…(笑えるか!)」
原田先生が、心配して電話をかけてきてくれていた。
忘れていたが、あたしは気を失わされていたわけで。「生徒の責任は私の責任です」と近藤先生が母に謝ろうとしたんだけど。母は「奏は無事なんですよね?それならいいです。若いんですしそんな事も有りますよ」と軽く流して、事態はあっさり収拾された。
あたしも、それで構わなかった。…と言うか、異論を唱えられる余裕を持ち合わせていなかった。
『総司の奴、余程心配してたんだな』
泣きそうになってただろ?あんな所、俺達でも見た事ない。そう掘り返されて思い出すのは全身を包み込むぬくもりで、顔が熱くなるのが分かる。あんな風に…それも男の子にされたのは、今までの人生ではじめてだ。
今でもドキドキという音が耳を突き、携帯がミシッと音を立てるくらい手に力が入った。
「そ、総司。そろそろ放してやれって。ケガ人なんだし、な!?」
「……」
「……総司、俺達の事も考えろ」
「…………わかったよ」
あの時、藤堂君と一君が声をかけてくれなかったらあたしはどうなっていたか。でも、放してくれた沖田君が漂わせる沈みきったオーラは、放して貰う事に少し抵抗をかんじさせた。電話中なのも忘れてはああとため息を零すと、原田先生がおかしそうに笑う。
「あ、ごめんなさい。つい…」
『気にすんな。…ところで、奏』
「はい?」
『そろそろ、総司にホレてきただろ』
「ぶ!!」
――ホ、ホレ!?
「何、言ってるんですか!」
『驚く事でもねえだろ?どんだけ時間が経って、どんだけ過ごしてきたか考えたら、妥当な質問だろうが』
どう表したらいいのか。原田先生には、永倉先生や近藤先生と違った気迫のようなものが有り、上手く言葉が返せなくなる。それは土方先生にも言える事だけど、この手の話だと原田先生が1番強いんじゃなかろうか。
「……わかんない、です」
考えて挙句に出した答えは、あいまいだった。嫌いなのかと聞かれたら…初対面のころと比べてそんな事は、無いし。あんな人イヤですよー!なんて言うにはいろいろ、いろいろあり過ぎた。
『……そうか』
「……」
『まあ、何かあったら連絡しろ。平助達よりは良いアドバイスが出来ると思うぞ?』
「あはは、それはそうですね」
あたしの気持ちを察してか。電話越しでも、やさしい目をしてくれていると声音で分かる。こんな風に言ってくれる人が居て自分は幸せだと思う反面、このままじゃいけないんじゃないか、と不意に考えた。
第3者から見るとあたしは、決して良くは見えないだろう。気を失う直前にも考えた気がする、いつまで"今"を続けるんだと言う問い。わかってる、わかってるけど…。
『…そろそろ、そっちに着くころだな』
そんな自問自答を打ち切って、あたしは何の抵抗も無く校門を見る。すると其処には、電話をはじめたころには無かった、他校の制服を着た人の姿が1つ。それが誰かなんて、分かりきっている―沖田君だ。あっちもあたしの事が見えているようで、こっちを向いて動かない。
「…はい、来てます。部活はいいのかなあ」
『知らねえのか?お前を送ってから参加してるぞ』
「え!?わざわざ!?」
『ああ』
「んな……」
『ま、早く行ってやれ。文句言われかねないしな』
「…はい…」
何かあったら連絡しろよ?原田先生はまたそう言って、通話を切った。ツーツーと耳元で鳴る音を聞きながら、自分のペースで歩き出す。ここから門までは遠くなくて、1分もしないうちに着いてしまう。
其処で、待っていた沖田君は。近くであたしを見るなりホッと肩の力を抜いて、紳士的に右手を差し出してきた。
「カバン、持つよ」
正直に言って気味が悪い。守るように鞄を持ち直しながら遠慮して、自宅を目指して先を行く事にした。