Late confession

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「……ん。何か、ね」


 自分から言い出した事なのに、何て言ったらいいか分からなくて曖昧な返事をしてしまう。そんな自分が焦れったくて、また、悩みの元でも在った。


「何々。て事は、楽しみなんだ?」

「…ん、ん〜…」

「ん〜て…、ハッキリしないわね」

「イテ」


 コツンと、額を拳で軽く叩かれた。モタモタしているから苛付いたんだろう、楽しみなの?とニヤニヤしていた美里は眉間にしわを寄せている。ぐぅの音すら出る前に呑み込んだ。

 や、叱られるのもムリないですよ…ね。大人しくうな垂れた。


「……う〜ん。アンタの口から言わすのは、まだ難しいか」


 あたしのお弁当から唐揚が奪われていく。好きだから最後に食べようと思ったのに!涙目で追うあたしに目も暮れず、美里は美味しそうに唐揚を頬張った。


「…んぐ…まあ、何て言うのかな」

「……?」

「奏、沖田君にホレてきてるかな〜?」

「ゴホ!!」


 唾を吹き出しかけたが、手を当てて防ぐ。思ったよりド直球で来たな、原田先生の回し者か?!睨むように見ても美里は何処吹く風、寧ろ呆れたような目をしていた。


「沖田君の事を考えてたから、ボ〜ッとしてたんでしょ?」

「…ま、まあ…」

「そんなになって、ホレてないなんて言える?…ホレてないにしても、気になってるのは確実でしょ」

「……」

「仕方無いってー。あんなイケメンにぎゅッてされたら、誰でもキュンとなるわよ」

「違うよ!あたしは、沖田君がイケメンかどうかは関係な…!…あ…」


 其処まで言ってしまうともう遅い。墓穴の掘り方がありがち過ぎて、そのマヌケさに落ち込んだ。椅子を引いて、浮きかけた腰を下ろす。そして目が泳ぐあたしを見て、それまで呆れていた美里はやさしく笑うと、ポケットから携帯をとり出した。


「……イイ事、少しだけ教えようか」

「?イイ事?」


 そして片手で携帯を開き、カチカチと操作を始める。一体どんなイイ事を教えてくれるのか期待していたら、ズイとディスプレイを押し付けられた。見えないと手に受けとり画面を見てみると、…どうやらメール画面のようであわてて目を逸らす。


「何してるの、人のメールなんて見れるわけ―」

「許す。読みな」

「えええええ。でも…」

「読んでみるべきなの。ホレ」

「ええええ。…ん〜…」


 …其処まで言われたら読むしかない、のかなあ。と言うか美里に来たメールにどんなイイ事があるんだろう。軽い気持ちで文章を読み終えたあたしは、へ?と目を瞬かせた。


「……奏が気を失った日から暫く、そういうメールが毎日送られてきてたのよ」


差出人、沖田君(ハート)。本文…、奏ちゃんムリしてない?


「……」

「どーよ?」


 ど、どーよと言われましても…。まさかここまで心配してくれていたなんて、ホント過保護だ。沖田君の方があたしのお母さんよりお母さんっぽい。

 こんなメールが、何件も?気になって親指が操作をしかけた前に、携帯を奪い返された。


「……あのさ、奏」


 メール画面から待ち受け画面に戻して携帯を閉じると、美里はじーっとあたしを見つめ直す。


「ホレるのが早いとかホレた原因が単純過ぎるとか、そんなの気にしなくていいんだよ?」

「……へ?」


 そうして言われた事の意味が分からなくて、目を点にして固まった。でもだんだん理解出来てくるとムズムズッとして、いやいやと手を振って否定しようとするともっと見つめられて身が竦む。


「あ、あたし……」

「よく言うでしょ?好きになったモンは仕方ない。好きなら好き、それだけなんだから」

「……」


 ――好きなら好き、それだけ。

 その一言が、何故だかじーんと心の中で木霊する。でもそれじゃあ、その通りと言っている事になるのではと、複雑な気持ちが交差した。手元に視線を落として、言葉を失くす。


「…まあ出会い方が出会い方だし、アタックのされ方が少し違うしああいう人だし。真面目チャンな奏の事だから、あんな男に引っ掛かるか!って構えるのかもしれない」

「…ハ、ハハ…」

「なのにさ。沖田君の事を考えてポケッとなるようなら、今度は自分から彼に近付いてみたらどうかな」

「あ、あたし、から?」

「そう。奏の方から」


 そんなの、考えてもみなかった。発端はいつも沖田君で、あたしから沖田君を知ろうとしたり…過ごそうとしたりする事は無かった。だってストーカーまがいの事をしてきた人を誰が知りたがるもんか。…そんなプライドのようなものが有ったから、自分からという事は無かったんだろう。


「自分から沖田君の事を知ったら…好きなのか、それとも違うのか。ハッキリしてくる筈だから」

「…美里…」

「あたし的には、そうして受身で居続けようとする子の方がタチ悪いわよ」

「……ん。ゴメン」


 あたしに人差し指を向けながらニッと片目を瞑る美里を見て、とても朗らかな気分で笑みが零れた。モヤモヤ感は正直まだ有るけど、それと付き合う方法が見付かると、逆に心地良く思える。

 ……そう、だよね。


「(…そうして、みようかな)」


 今度はあたし自ら、ささやかなお礼として玉子焼きをプレゼントした。


「お、サンキュ♪」

「どう致しまして、先生」

「うん、なかなかイイ響きね。…あ、て言うか」

「?」

「あんたが本当に好きな人は斎藤君で、だからモヤモヤしてるって言う三角展開も有り得るわよね!ワオ♪」

「オイ!!」



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