Late confession

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「…何で…」


 スタスタと、無言で近付いて来る一君。近付くに連れてその冷たい瞳は鋭さを増し、不覚にも、ぞわりとしたモノが背筋を走ったのをかんじた。

 刹那、グイ!と胸倉を掴まれる。


「……今まで、何をしていた?」


 うなるような、何かを抑えるように低く震える声。聞くまでもなく、彼もコトを把握している。


「……」

「何を、していた?」

「……パーティの、準備をしてた」

「…!!」


 答えると、一君は目を丸くした。そして次には拳を大きく引き、頬を目掛けてくり出してくる。避けるつもりもない、頭のどこかで覚悟は出来ていた。

 次の瞬間。バキン!と音がして、視界がグラリと揺れた。


「……パーティの準備、だと?」


 倒れはしないように、何とかふみ止まる。


「…近藤さんに、頼まれたから」

「それだけか?」

「……うん」


 近藤さんに呼ばれる事ばそれだげという価値の無いものではない。少なくとも、電話を受けた時は何よりも…大事だと、思った。でもこんな事が起きた今では正しいとは言えなくて、頷く。

 じわ…。口の中に、血の味が広がる。


「…香月は今、高熱を出して寝込んでいる」

「…え…?」

「元々、体調を崩すと弱いそうだ。おそらく1週間はまともに動けない」

「……」


 その味ごと、唾を呑んだ。


「…会わ、なきゃ…」


 フラリと、マンションに向けて勝手に足が動き出す。行かないと、話さないと。彼女が風邪を引いている事も忘れてただ思う。しかしすぐ、一君に肩を掴まれた。


「…どうする気だ?今あんたを見る事は、香月には辛い事でしかない」

「っ……」

「簡単に済まされる話でもない。今日は帰れ」


 有無を言わさず、強い力で来た道に引き戻される。嫌だと口では抵抗するものの、ふん張れなくてなすがまま。

 ――こわい。一君が話してくれた事実を、目の前にするコトが。自分のせいで風邪を引いて、寝込んでいる奏を見るコトが。目を開けた時、何を、言われるのか。

 そんなふうに逃げようとする自分がまた嫌で、下唇を噛むと、ジンジンと痛みが走った。



「……俺も。買い出しを頼まれて、外に出ていた」



 奏の家から離れてくると、一君は肩から手を放して静かに口を開いた。少し落ち着いたのか、さっきまでのドスは薄れている。


「香月を見付けたのは、学校に向かう途中だ」

「……何時、あたり?」

「11時半くらいだ」


 一君の目を見れなくて、足元を見続けた。道によってはうっすらと雪が積もっていて、シャク、と音が鳴る。

 11時、半…


「其処で…――」



 …1時間半も、居たんだ。



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