Late confession

□EX:04
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「え?総司が簪をくれる!?」

「あ、」

「あー!何バラしてんだよ!!」



 ――所変わって、京のとある一軒家。

 奏の家に遊びに来た永倉と藤堂は、茶をすすりながら最近の事を話していた。その中で。あろう事か永倉が、先日、原田から聞いた話をうっかり喋ってしまったのだ。

 あわてて口を塞ぐが、時すでに遅し。奏はポカンとして茶菓子をのみ込む。


「あ、今、今のは忘れてくれ!俺は何も言ってねえし奏は何も聞こえてねえ!な!?」

「ムリがあるって…」

「……だよな」

「……」


 呆れて言う藤堂に、永倉はうな垂れた。一方奏は未だに受け入れきれないようで固まっている。そのうち何を思ったのか百面相して、お茶を一気にみ干した。


「…それ、ホント?何か目論まれてるのかな、あたし」

「そ、それはねーよ!本気で考えてたみてえだしさ。信じてやんないと、可哀想な気が…」

「しかし、総司が簪をねえ。一体何で急にそんな事を。奏、心当たりは?」

「へ?あ、ああ…」


 心当たりはと訊かれ、目を逸らす。多分あれが原因だろうと心当たりがあるからなのだが、言おうか言わまいか。迷い所である。


「…あたし、早死にするよね」


 ――不要な心配を掛けるだろうし。

 簪を買ってくれるのは、あの日、使ってた簪がぼろぼろになってるのを見たからだろう。心配しなくても、簪はほかにも持ってるのになと、くすぐったさに奏は笑みを溢した。


「ま、まあ何にしろ!俺が口を滑らせた事は言わないでくれよ?!知らんぷりをしてくれ、知らんぷり!」

「大丈夫、分かってます」

「でも、先こされた気分かも。たまには俺も奏に何か渡そうかなって考えてたのにさ〜」

「!」

「なーんつって…ぐあ!」

「かわいいなー、ホントかわいいなー!うりうりうり!」

「イテテテテ!ま、今のうそ…!!」









「……何をしている」

「!…ああ、一君…」


 またその次の日。斎藤は、簪が並べられている店の前に立ち尽くしている沖田に声を掛けた。


「巡察はどうした」

「僕の方は異常無し。一君は?」

「……異常無しだ」

「そ」

「……」


 ――あえて言うなら、あんたがそうして居るコトだけだ。

 どこまでも自由な振る舞いに呆れながら、沖田の傍まで歩く。見下ろして見ると女性が好みそうな簪がたくさん並べられており、何故こんなものを見ている?と首を傾けた所で、斎藤にある話が甦る。



「ええ!?総司が簪を…むぐ」

「デケェ声出すなよ、新八!」




 原田の部屋の近くを通り掛かったとき、聞こえてきた会話。何の話か全く分からなくて忘れていたが、ナルホド。何だか分かった気がする。斎藤はチラリと沖田の手元に目を向けると、きびすを返した。


「……行くぞ」

「?何処に?」

「奏の家にだ。行くつもりだったのだろう?俺も、副長からの文を届けなくてはならないのでな」


 先にすたすたと歩き出した背中を、すぐに追いかける事をためらう沖田。それでも来ると確信していた斎藤は歩き続け、少しして、すたすたと後ろを歩く音に目を閉じる。


「(…差し詰め。買ったはいいがなかなか渡しに行けなかった挙句、本当にこの簪でいいのかと考えていたのだろう)」


 ――全く、世話の焼ける奴だ。



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