Late confession
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「うおおおおおお!!」
体育館のすみでそんな叫び声(雄叫び?)が上がると、部員は一斉に注目した。しかし当人―藤堂は今目に見えてるものに必死で、気付くようすはない。見兼ねた原田が近付き、後ろから覗き込んだ。
「…携帯…お前なあ、今部活中だろうが。早くしまって練習に――」
「!左之さん!!奏から返事がきた!」
「何!?」
そして、叱るつもりがあっさり流されてしまった。だが何日も連絡がとれなかった人からのメールだから、そうなるのも仕方無いのである。
自分は関係ないと見て部員達は部活を再開する中、斎藤・永倉は目を丸くして2人にかけ寄った。
「返事がきたって、本当か!?」
「……」
「何てきたか早く見ろよ!」
「今開くよ…!」
いつか返事はくると信じていても、唐突な事に藤堂は操作を間違える。ああもう!と顧問の2人に頭を叩かれながらメールを開くと、すぐ読んでしまえる短い文章が映し出された。
< メール、返さなくてゴメンね。
あたしは元気です。たくさんメールくれて有り難う。(^^) >
矢印を下に連打しても、出てくる文字はもう無い。元気でいるかはもちろん気になるが、気になる事は他にもまだまだあって満足出来なかった。そもそも、音で「元気です」と聞くまでは安心出来ない。うーんうーんと返事を考える藤堂の携帯の先を、原田と永倉の指が同時に摘まんだ。
「「電話しろ、電話!」」
「うわ!?ちょ、壊れるからッ!つか自分の携帯でかけろよ!」
「……」
焦っておかしな争いを始めてしまう3人を暫く見つめた後、斎藤はスタスタと自分の鞄が置かれている所に向かう。そして軽く周りを気にすると、鞄の中から2つ折りの携帯をとり出して開いた。
受信メール、1件。
誰が送ってきたかなんて考えるまでもなく、すぐに開封して見た。
< 有り難うね、一君。お礼が遅くなって本当に、ゴメン。有り難う>
…それだけ。それだけの文を読み終えると、はあと目を閉じる。話がしたくても掛ける言葉が見付けられなくて、何とも言えない気持ちの悪さに苛まれた。
「(…香月、あんたは、今…)」
自分なりに必死で考えてみる斎藤だが、男と女という違いがある上に自分が全く触れた事のない次元の話で、プスーと頭から湯気が吹き出してくる。何とかして分かろうとすればするほど空回りして、パンク直前で諦めた。
「皆で何してるの?」
「「「「!?」」」」
と。まるで見てましたというタイミングで声を掛けられて、斎藤達のうごきが止まる。振り返ると、遅れて部活に参加してきた沖田がふしぎそうにしていて、藤堂は「何も!?」とあわてて携帯を背中に隠した。原田と永倉もそれに合わせようとしたが、斎藤だけは無言で沖田と向かい合う。そして、
「香月から、メールがきた」
「……え?」
「「「斎藤(一君)!!?」」」
素直に話してしまった。一気に青ざめ藤堂達を尻目に、目を丸くして立ち尽くす沖田をしっかりと見据える斎藤。誰も触れられない、触れてはいけないオーラが2人の周りに見えた。
カタカタと震えながら見守られる中。先にアクションを起こしたのは――沖田。丸くした目を細めて、睨み付けるかと思うと。聞きとれるかとれないかほどの小さな声で、短く笑みを零した。
「そ」
何てきたの?とか、元気そう?とか…。何も聞こうとしないまま、むしろ避けていくようにも思える沖田を、ガシリと手首を掴んで藤堂が引き止めた。
「…少し、話さねえ?」
「……今度ね」
だが、それも早々に振り払われる。後は一言も発しないで着替えにいく沖田の背中に、4人は何とも言えない複雑な気分で見送った。