Late confession

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「ただいま〜」

「お。オケーリ」


 ―家の中に入ると、出迎えてくれたのは兄。淹れ立てだよ!と湯気を立てて主張するカップをお盆に乗せて、台所から出てきた。…のはいいが。気になる所があって、あたしは首を傾げる。


「……何で3つも淹れてるの?」


 まさかあたしの分も淹れてくれたにしても、1つ多くないか。今日お母さんは遅くなるって言ってたし…。


「ん?ああ、俺とお客さんの分」

「あたしの分は無いんかい!…って、え?お客さん?」


 下を見ると、たしかに、見なれない靴が2人分ある。スーツに合わせる男の人の靴だ。あわてて口に手を当てて、静かに家に上がる。


「あたし、部屋に居るね」

「?何で?」


 何でって、貴方のお客さまでしょう。


「お前に用がある人達だぞ」

「……。え!?」


 一気に冷汗が噴き出した。まさかまさかまさか!先生?先生なの?スーツで大人の男の人なんて、担任しか浮かばない。あたし何かした?宿題も出してるしテストもそんなに悪くない筈…!

 ヒィィとあれこれ考えていたら、来いよと兄はリビングに戻っていく。叱られる身としては回れ右をしたくてたまらないが、事態を悪化させたくはないので腹を括る事にした。無意識に足音を消しながら、そろりとリビングを覗き見る。

 でも、じーっとこっちを見て待っていたらしいその人は、あたしと目が合うと人の好い笑みを浮かべた。



「やあ、香月君!」

「ぶっ!!」



 女子がはしたない。そう言われても可笑しくない勢いで吹き出す。ああ何故かな、座っていたのは――


「近藤先生、土方先生…」

「久し振りだな、奏」


 ――って、何でやねん。

 ええええと震える指で2人を指しながら兄に目で説明を求めるも、きょとーんと肩をすくめて返された。


「て言うか、何であたしの家…」

「藤堂君が教えてくれた」

「ああ…ですよね…」


 貴方達の回りには、あたしを知ってる人達が居ますもんね…。何だか複雑な気分だが、突っ立っているわけにもいかないので、先生達の向かいの席に回る。学校は違えど先生には変わりないから、ふしぎと背筋は伸びた。兄は早速お茶に口を付けて、ソファで見守っている。


「……それで、何の用ですか?」


 ――わざわざ家まで訪ねて来るなんて。

 そう言うと、先生達はあたしから目を逸らした。その分かり易過ぎる反応にはあえてツッコまず、話し出すのを待つ。…今のあたしの口調には、自分でも分かる程トゲがあった。だって、何の用かなんて分かりきっている。


「……近藤さんに、お前と話がしたいと住所を調べるように頼まれた。ま、校長1人で行かせるわけにはいかねえからな。俺は付きそいだ」

「……」

「ほら、近藤さん」

「あ、ああ。…その、だな。香月君」


 もそもそと言葉に迷う近藤先生を、土方先生が軽く叱咤した。すると近藤先生はまだオドオドしながらも、あたしの目をしっかり見据えて喋り出す。


「…私は、つい先日まで。君と総司に何があったのか、知らなかった」


 考えるまでもなく、その話だろうという事は分かってて。語られた事も、そうでしょうねと思っていた範囲だから差してインパクトは無い。近藤先生は唇をきゅッと引き結んで、視線を落とす。


「無責任も、いい所だ。わたしが原因と言っても過言ではないのに」

「…それは、違いますよ。近藤先生は、キッカケに過ぎません」


 沖田君にとってあたしは、言うほど大きな存在ではないという事。それに気付けたのは、あたしにも沖田君にも、いいキッカケになった。やはりイケメンには気を付けよう、そう心の中で笑った事もある。しかし近藤先生は首を振り、おもむろに立ち上がった。


「?」


 そして、あたしの位置から全身が見える所に立つ。どうしたんだと目を瞬かせる一方で、土方先生もふしぎそうにしていた。

 ……が。


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