きみと未来へ -The Peaceful World-

□start (始動)
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物心ついたのは1931年11月29日の朝だった。



視界が今まで全く見えていなかったかのように鮮やかに開けるのを感じた。


右手に感じる温もりに目をやると、そこには男の子が眠っていた。


柔らかそうな肌と紅色の唇。
閉じられたまぶたには長いまつ毛。
ゆるくくせのある髪は深い黒。

眉のあたりが利発そうな、美少年だ。
歳は4,5くらいだろうか。


まったく見覚えがない・・・・・・とは言えず、彼女は混乱して頭に手をやった。
そこには指通りのいいストレートヘアがあるはずで
・・・・・・しかし、当たり前のはずの予想は覆され、指に絡むのは緩やかに波打つソバージュヘア。


明らかに西洋人である眠れる幼子を見下ろしつつ、彼女は硬直した。


自分は日本人であるはずだった。
だが、見回した部屋はどう見ても日本のそれとは雰囲気も調度も、違う。


一体どうしたことかと混乱を通り越して呆然となった彼女の思考に、

ノイズ。



「っつ、ぅうっ」



ずきりずきりと痛み出した頭に両手をあてて蹲る。
かたいベットの上だ。まだ残っている思考が分析する。
それもまた痛みに飲まれかけたとき、幼子が目を覚ました。
拙い言葉が彼女にかけられる。


「Can't you sleep,can you?
Do you have headache again don't you?
(ねむれないんだね? またあたまがいたいんでしょう?)
 だいじょうぶ?」


流暢とは言い難くともなめらかな発音が、急にきれいに理解できるようになる。

彼女は驚いて顔を上げた。
そして目に映ったのは、一対の赤い目――否、焦げ茶色の目。
人形のように整った顔立ちの少年がひどく心配そうに彼女を覗き込んでいたのだ。

彼は、だれだろう、とふと思ったとき、その名はするりと口をついて出た。


「と、む」
「むりしちゃだめ。
 ほら、よこになってジェンヌ。みずのむ?」


小さく温かいやわらかな掌が彼女をうながして横にならせた。


へいき、と答えると、彼はひとつうなずいて彼女の横に腹ばいになる。
まだ少し眠たそうにそのまぶたがまたたきをした。


「よくならなかったら、あさごはんはここでいっしょにたべようね」
「う、ん・・・あり、がと」




・・・・・・・・・訳が、分からない。
でも、わかった。


いつのまにかつながれた小さな手2つ。







自分たちは、共に生きるために、ここにあるのだと。


















行間は、もっとあけたほうがよいのだろうか・・・・?
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