きみと未来へ -The Peaceful World-
□start (始動)
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さいしょのはなしをしよう。
灰色の街並みとぼろぼろの建物と、足早に歩き去る暗い顔の大人たちと。
孤独。ひとりぼっち。
それがどれだけの寂しさか、ほんとうに知っている人はきっと少ない。
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ひび切れた唇から白く染まった息が漏れていく。
指先をさすり合わせて、逃げていく熱を引き止めながら軽く足踏みした。
白い肌の底から血の色がはんなりと浮かびあがる。
少女の横にはその小さな体より頭二つは大きい鉄の門扉が立っていた。
灰色の雪がうっすらと積もっている。
少女はふと伏せていた目を上げて、その黒い門扉を見つめた。
いくらも経たないうちに、彼女はふるふると首を振った。
幼い容姿に見合わない、疲れたような表情で。
そしてまた指先をこすり合わせて、真白に染まる息を吹きかける。
道の向こうを見つめる瞳はよくよく見ると、左右でほんの少し色が違っていた。
左はとろりとした漆黒、右は赤みのある焦げ茶色だ。
彼女が――目立たないが、――所謂オッドアイ
であることを知っているものはたった一人だけ。
色味の違うふたつの瞳は強い光を宿して煌めく。
悲痛なまでに、真っ直ぐに。
その強い瞳の中の灰色の街並みにひとつ、彼女の待ち望んだ人影。
彼女に気づいたらしく、彼は抱えた紙袋を揺すりあげて抱え直すと軽く駆けてきた。
地を蹴ったはずみに、伸びすぎた前髪が目元に落ちかかったのが見えた。
彼は煩わしそうに首を振ってそれをどうにかしようとしながらも、危なげない足取りでやってきた。
少女はここにきて、漸く歳相応の可愛らしい笑みを浮かべた。
少女は笑みを浮かべたまま、駆けてきた少年を出迎えた。
「お帰りなさい!」
「ちょっと! ジェン? なんで外にいるの!」
少年に開口一番そう言われたが、ジェン――ジェンヌは答えない。
ただテキパキと荷物になっていた小さな紙袋をひとつ取り上げ、もう片方の手で少年の頬を包んだ。
「つめたぁい」
ふふふ、とどこか嬉しそうに笑ったジェンヌは彼の目元に落ちかかった髪を払って、くせをつけるように梳き撫でる。
少年はその温かさに思わずほぅと息をついて仕方なさそうに笑った。
「もう・・・風邪ひいちゃだめだよ?」
「うんわかってるよー。お帰りートム」
催促するように小さな手が彼の頬を何度も撫でつけた。
トムはくすくす笑いだして、その手を空いた手で取った。
冷たくなっているその手で、しっかりと。
・・・それこそが、彼女を笑顔にすると知っているから。
「うん、ただいま」
「うん、えへへ‥ほら、中入ろー!」
にぱっと笑みを明るくした彼女に、彼は眩しそうに笑い返した。
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