きみと未来へ -The Peaceful World-
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気づいたのは数年前の真冬の日。
眠りから覚めたように、彼女はゆるゆると覚醒した。
気が付くと彼女は此処にいた。
それは唐突かつ衝撃的な認知で、彼女は停止した。
全停止した。
彼女はそれまで普通に(・・・)生活していたのだ。
そう、普通に(・・・)
21世紀の日本の首都で、看護師として。
覚えているのは夜勤明けの帰り道。
別に事故にあったわけでもなんでもない。
普段通りに自宅アパートに辿り着き、化粧を落として眠り込んだはずだった。
そして、ずいぶん長い間眠ったような感覚を覚えながら目覚めたとき、
彼女は此処にいた。
吐いた息が時折白く凍る狭い部屋。
見上げた空が灰色の雪を降らせる、薄暗いモノトーンの街。
大通りに面しているのに、活気づいている様子はない。
行き交う人々に笑みはなく、ただ寒さに急かされるように早歩きだ。
外の寒さは壁の隙間をかいくぐって肌を刺す。
誰も――孤児院にいる子供は勿論、大人だって誰一人として――他人を守ろうとはしてくれない。
だから皆、すさんだ目をしていた。