No more cry
□commencement(開始)
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思い出せる彼女は線の細い少女だ。
陽炎よりも危うい揺らぎを瞳の中に湛えて微笑む、ごく普通の少女。本を読んだり絵を描いたりするのが好きだった、穏やかな彼女。
けれど、時折予想外にお茶目で悪戯めいたところがあった。忘れた頃に驚かされて、そして結局、彼女の周りには笑顔が絶えなかった。
ーー別れは唐突だった。
蒸し暑い夏の日。蝉の声。古びた窓ガラスから照り付ける真白い日差しが目映いほどの午後。
ゆらり、と揺れた、ほそいからだ。
そうして、姉と慕った彼女の時は止まってしまった。
そしてここに、月の光を乱反射する小さな池の水面を焦点の合っていない目で見つめる少女が一人。
「・・・・・・・・・さて、状況を整理しようか」
その幼い容姿に似合わない言葉が小さな唇から飛び出した。
物語が始まる。やがて、終わるべき時に終わる為に。