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「…知ってるか?左手の薬指は心臓に繋がってるらしいぞ」
「え…」
不意に灰崎の薬指を唇に含み、その根本をキツく噛んで歯形を付ける。
「っいた…!?」
「お前がオレ以外の誰かを見て笑ったり泣いたりしてんの見ると…、たまに殺したくなる」
「……え」
"殺したくなる"。その物騒な発言に目を大きく見開いて硬直していると虹村の手が自分の頬を包み込む。
「なぁ灰崎、オレが好きなんだろ?黒子達とは違う意味で。オレのことが好きで苦しくて悲しくて自分が分かんなくなって、でも嬉しいんだろ?それは…、オレがお前を好きなのと同じ意味じゃないのか?」
虹村の声が表情が瞳が不安と焦りに揺れていて、今まで見たことのない、懇願するような、すがるような彼の姿を灰崎は呆然と見つめた。
「灰崎…、オレにキスされるの嫌じゃないよな?」
「わ、かん…ない」
無意識に返した言葉に虹村が顔を歪めていたが、灰崎は震えた声で言葉を続ける。
「は、ずかしい…、し……息できなくなるし、き、気持ち良くて、何もわかんなくなる」
「……」
そう告げれば彼の瞳は一瞬だけ見開く。
「わかんねぇよっ…。好きなだけじゃダメなの…?」
黒子達と同じような"好き"だけの気持ちならば、苦しい思いもしない。嫌われるかも知れないって不安を抱く事もない。
だけど虹村はそれを拒否するように首を左右に振った。
「駄目だ。オレはお前の特別に…、恋人になりたい。なれるなら、お前がオレ以外の奴を見ても耐えられる。でもなれないなら……いっそこのまま何処かにお前を閉じ込めて抱き潰して…、殺してしまいたくなる…!」
一瞬声に狂気にも似た熱情が宿っていたが、それはすぐに消えて、ふっと、幼子を宥めるような甘く優しいものに変わる。
「なぁ…灰崎。抱いていいか?もしオレがお前を抱いて嫌じゃなかったら、お試しでいいからオレと付き合ってくれ」
「……!」
ねだるようなその言葉に焦がれた色を浮かべる大好きな灰色の瞳を、灰崎はただただ身体を硬直させて見つめていた。
「灰崎…」
「……っ」
だけど彼の名前を呼ぶ声を聞いた途端、自分はこの人に抗う事が出来ないと感じて、顔を真っ赤に染めたまま小さくこくりと頷いてしまった…。
灰崎の了承を確認した虹村は、愛しそうに灰崎を見つめて、震える体を優しく抱き締める。
「ありがとな…」
そう呟くと共にお互いの唇を重ね合わされた…――。
「ん…、や…ぁ…!っ…く…!」
身に纏っていた衣服はいつの間にか脱がされていて、首筋から胸元にかけて愛撫をされる。
「は…ぁっ…!にじ…むら…さ、ぁ…っ!」
今まで感じた事がない快楽に灰崎は酷く混乱をして涙をボロボロと零しながら、ただひたすら、すがるように虹村の名を呼ぶ。
彼はそんな自分を愛しく感じてくれているのか、ちゅっと首筋に吸い付いて甘噛みをしつつ紅い印を、そして歯形を身体に刻み込む。
「…はっ…、ぁ…!」
初めて付けられる虹村の印。強く吸い付かれたせいで真っ赤に痕が残っているが、でもこの印を付けてくれるのは自分だけなんだと思えたらひどく嬉しく感じて…。
「んっ…、ぁ…あ…!はっ…、は…ぁ…!」
次々と全身に吸い付いて紅い印を刻んでいく虹村に抵抗なんかこれっぽっちも出来なかった。
「はっ…、や…ぁ…!」
「祥吾…」
「ん…んぅ…!」
胸元や鎖骨、首筋やうなじに自分だけの印をたくさん付けられて満足したのか、虹村の唇がまた灰崎の唇を塞いだ。
「んっ…、んん…!」
「…っ」
歯列に舌を這わされて、灰崎の舌と自分の舌をしっかりと絡ませて、これでもかってくらいにしつこく甘くて深いキスを交わす。
「んっ…、んぅ…!」
それがすごく恥ずかしい。嫌でも彼が自分を"好きだ"と唇に通して告げている事が感じられるから。
灰崎は耐えきれなくなって虹村の視線から逃れようと瞼を閉じると…。
「ふぁっ…!?んやっ…!あぁっ…!」
虹村の手が熱を集めて硬く勃ち上がっている自身を強く握る。
「目ぇ逸らすなって言っただろ。頼むから…、今はオレだけを見ろ…!」
「は…ぁっ…!ん…、ぁぁ…!」
自身の先端を指先で擦り付けるように弄られると強い快感が灰崎に襲ってくる。それに逃れたくて必死に何度もこくこくと頷いて潤んだ瞳で虹村を見つめると、彼は安堵したように表情を緩ませてキスを再開させる。
「んっ…、ふっ…」
口腔が熱くて、甘ったるくて、脳がチョコのように蕩けてしまいそうだ。
「祥吾…、お前も舌を絡めて…」
「ふ…ぇ…?」
「オレと同じような事して…」
「んっ…ふ…!んん…っ…!」
突然の要求に戸惑いを覚えたが、今まで格好良いとばかり思っていた虹村が駄々を捏ねる子供のように見えて…。灰崎はそんな彼を愛しく思い、要求通りにおずおずと舌を絡ませた。
「んっ…!んんっ…、ふ…ぁ…」
「ッ…、ん…ッ…!」
「はぁっ…、ふっ…ぁ…!」
くちゅくちゅと互いの口内から響く淫らな水音が、静寂に満ちる保健室から響き渡り、身体がぞくぞくと震える。
「にじ…むらさんっ…、んんっ…!」
「祥吾…、好きだ…!んっ…」
「ん…ッ、んん…、は…ぁっ…」
長く口腔を蹂躙していた虹村の唇がそっと離される。飲みきれなかった互いの唾液が灰崎の唇に零れていき、力が抜けた灰崎はぐったりとした。
「は…ぁっ…、は…ぁっ…!」
失った酸素を取り入れるのに精一杯だ。何故虹村のキスはこんなにも甘くて息苦しいのだろうと、ぼんやりとする思考の中で考えていると、虹村の手が自分の頬を優しく撫でてくれる。
「お前…、本当に可愛いよな…。ヤバい…、そんな可愛い顔を見せられると…、ますますお前の事を好きになる…」
「……っ」
彼に"好き"と言われる度に心臓がバクバクと煩い程に高鳴り、苦しくなる。視界も涙のせいで滲んでしまい虹村の顔がよく見えない。
「そ…んな…に…、すきすき…言…うなよ…!」
「あぁ?何で…」
「はず…かしくて…、しに…そうに…なるっ…!」
今まで12年間も虹村は自分の嫌いだとばかり思い込んでいたのだ。だからそんなに何度も"好き"なんて言われると心臓がドキドキして壊れてしまう。
すると虹村は顔を真っ赤にしたまま仔犬みたいに震える灰崎を強く抱き締めて、耳朶に唇を寄せる。
「嫌だ。何度だって言ってやるよ…」
「!」
「オレはお前の事が好きだ。いや…、好きの言葉じゃ片付けられない。愛している…」
「はっ…!あっ…!」
不意に虹村の手が下半身の器官に触れた。今から何が起こるか分かりきっている灰崎は、身体をカタカタと小さく震わせて怯え始める。
「祥吾…、力…抜いとけよな…」
「あっ…!にじっ…、んぁぁっ…!」
名前を呼ぼうとした瞬間、彼の指先が中へと入っていくのが分かった。
初めて中に感じる異物感。それが痛くて、気持ち悪くて…。灰崎は身体を震わせたまま、痛みに耐えて唇を強く噛んでいた。
「んッ…、く…!ぅ…!」
「祥吾…。ゆっくりで良いから力抜け…。大丈夫…、何も怖くないから…」
怯える自分を落ち着かせる為か、虹村は何度も触れるだけのキスを額に、瞼に、頬に、唇に…、次々と落としていく。
「は…、ぁ…!は…ぁぁっ…!」
必死に力を抜こう。抜こうと深呼吸をすると、少しずつであるが太い指先が奥へと侵入していく。
「あぁっ…!あ、…はぁっ…!にじむら…さ…っ…」
「痛いのは最初だけだ…。すぐに気持ち良くさせてやるよ…」
「や…ぁ…!あっ…、んん…、い…たぁっ…!」
くちゅくちゅと厭らしい音を立てて、指が上下に動かされる。痛みの中で僅かな快楽を感じた灰崎は、きゅっと虹村の白衣を掴んで震えていた。
「ほら…、分かるか?祥吾…。ちょっとずつ中が柔かくなってきてるぞ」
「ん…、んんっ…!」
「お前…、意外と感じやすいんだな…。これならすぐに気持ち良くさせてやれるわ…」
「え…、にじむ…っ…」
虹村の名前が言い終わる前に指の動きが段々と右往左往になっていった。
「ああっ…!やっ…、ぁぁ…!ん…、や…!」
先程とは違う強い痛みと快楽に戸惑って灰崎の身体は大きく震える。虹村の手が敏感である場所を探している。それが恐ろしくなってイヤイヤをする子供みたいに首を左右に振って拒否を示す。
「や…だっ…!にじむら…さん…!さがしちゃ…、や…ぁっ…!」
「悪いけど却下。オレはお前が快楽に溺れている顔をもっと見てぇの…」
「んんっ…、んぁっ…!?」
奥の方へ虹村の指先が当たる。彼がそこへぐちゅ、と突き上げた瞬間、今まで以上に強い快楽を感じて自分の腰は驚く程に仰け反り返った。
「な…に…、いま…の…」
戸惑うように震える声で呟くと、虹村は口角を上につり上げて笑った。
「みぃーつけた。お前の弱いトコロ」
「ふ…ぇ…!や、やめっ…、ぁぁっ!」
彼の指先が執拗以上に奥へ刺激を与える。指をくちゅくちゅと掻き混ぜたり、時折は強く突き上げたり。
灰崎の声も段々と高くなり、喘ぎにも甘ったるさが含まれていく。
「や…らぁ…!それ…、やぁっ…」
ふるふると首を横に左右に振って顔を背けると、虹村の舌が不意に灰崎の胸の先端を這わされ、そのまま舌で転がされた。