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「キミが黄瀬涼太君だね?私が担任の武田だよ。どうぞよろしくね」

「あ、ハイ!よろしくお願いします!」

高校一年の、しかも夏休み前という珍しい時期に黄瀬涼太は私立帝光高等学校に編入した。
わざわざ神奈川の学校から東京の学校に編入した理由は両親の仕事の都合で引っ越ししたことと、モデルの仕事のことである。東京にいた方が撮影現場に行きやすいし、こっちに住んでるマネージャーとも連絡が取りやすい。だから黄瀬は編入を決めた。

東京に住むのだからあまり不便なことはないだろう。まぁ、強いて言えば一つだけ、自分は小中高生に人気の黄瀬涼太なんだ。また女の子達にわーわー騒がれ、囲まれる三年間を過ごすことになるんだろう。
地元の中学でも黄瀬は女の子から大いにモテた。下駄箱には毎日五通以上ラブレターは入ってあったし、告白もデートの誘いも毎日のようにあったし、調理実習で作ったお菓子も数え切れない程貰ったりもした。地元であれだけモテたんだ。東京ではもっと自分はモテるに違いない。

――全く、人気者は本当辛いっスよ〜!

そんなことを思いながら武田の後を付いていき、バッチリ印象良く挨拶が出来るよう深呼吸をする。転校でも編入でもまず初めが肝心だ。初対面相手に好印象を与えれば後はモデルで培ってきたコミュ力でどうとでもなる。

『えー、今日は転校生を紹介するー。黄瀬君、入ってきなさい』と穏やかな笑顔で武田に告げられた黄瀬は完璧で綺麗に浮かべた笑顔のまま教室に入り、明るい声で自己紹介をする。

「今日からこの学校に通うことになった黄瀬涼太っス!モデルやってると思うから皆さん知っているだろうけど、どうぞよろしくお願いします☆」

最後にシャララスマイルでウィンクをして周りを見渡すが、予想外に女子の反応薄い。チラッと黄瀬を見ては興味なさげに目を反らす程度。窓際のピンクの髪の子にいたっては視線すら寄越さない。そして男子の反応はというと若干死んだ目で、黄瀬を哀れむように生暖かい目線を送っていた。まるで『ああ、コイツもオレ達と同じ運命を辿ることになるんだ。可哀想に…』と言いたげな…。

「――…」

あまりの予想外の反応の薄さに黄瀬は内心、何でっスか!?普通はキャァァアアアアアって女子の黄色い悲鳴が上がる筈なのに!!と絶句していたその時、ある一人の男が急に席から立ち上がり馴れ馴れしく黄瀬の肩に腕を回す。

「ふっふっふっ、皆の反応が薄い理由が知りたいようだね?黄瀬涼太クン」

「ア、アンタは…?」

「オレの名は高尾和成!遠慮なく和成って呼んでね!よろしく☆」

「はぁ…よろしく…。で、何でオレに対する反応がこんなに薄いんスか?特に女子!!」

高尾という男子は、顔はなかなか整っているイケメンだが、なんだかチャラい印象を受ける。黄瀬は適当に挨拶を済まし、真相を知るべく早速小声で問い掛ければ、高尾はまるで今から悪戯を仕掛ける子供のように無邪気に笑い。

「理由が知りたい?それはねー」

ガラッと勢いよく教室の戸を開けた人物に目線を向けて、答えた。

「ウチの学校にはもう王子様と騎士様がいるからだよ!」

「は…?それはどういう…」

「キャァァアアアアア!!テツくぅ―――ん!!」

「やーんショーゴくん!!今日もカッコイイ〜!!」

「!?」

今まで静かだった女子が突然黄色い悲鳴を上げて、遅刻してきたらしい二人組に向かって大きく手を振り、またキャーキャーと騒ぐ。時折、王子様ー!騎士様ー!という声まで聞こえ、黄瀬も思わずその二人に視線を向けた。

「あー、クッソあのハゲ野郎!いちいち人の制服に文句つけやがって!」

「きちんと着てるのに巻き添えで説教されたボクに何か言うことは?」

「愛してる」

「知ってますよ」

遅れて教室に入ってきた二人組は随分と対照的だった。

真っ先に目を引くのは、如何にも女子の人気を集めそうな不良じみたイケメンだ。180はあるだろう長身、わざと不揃いにした灰色の髪、睫毛の長い銀の瞳、整った挑戦的で甘い顔立ち、しなやかな筋肉のついた細い腕、着崩したシャツの下のドクロのTシャツと銀のピアスが似合っている。

それと対照的に、きっちりとネクタイまで結んだ清潔な印象の方は、160半ばぐらいの背に、かなり短く刈り込んだ髪は淡い空の色、零れそうに大きな瞳は湖のような静けさ、大人びた雰囲気で…――――膝丈のスカートを穿いていた。

「…は?」

よく見れば不良の方はかなり短いがやはりスカートを穿いている。

「って、あの二人女じゃないっスか!?高尾クン!!」

「ん?そうだよー!あの二人がウチの学校の"銀の王子"と"黒の騎士"!」

「誰が付けたんスか!?そのネーミング!!」

ハッキリ言ってセンス悪い!ダサい!と騒いでいると、灰色の髪のイケメン女子が『あぁ?』とガン飛ばす勢いで黄瀬を睨み付ける。

「カズナリ、誰このシャラいの?」

「あっ、祥ちゃんとテッちゃんおっはよー☆転校生の黄瀬涼太クンだよ!」

「おはようございます高尾君。そういえば先生が先日、転校生が来ると仰っていましたね」

「へー、興味ねー。どうせ来んなら可愛い巨乳ちゃんが良かったわ。野郎とかマジいらね」

「女性を胸で判断するのはよくありませんよ。祥子さん」

「だってよテツナー!」

「ちょっと高尾クン!!コイツらほんとに女!?さっきから女子らしくない会話が聞こえてくるんスけど!?」

然り気無く自分をdisられ、大層機嫌が悪くなった黄瀬は灰崎と黒子に向かって思い切り指を差すが、予想通りの黄瀬の反応が楽しかったらしい高尾は腹を抱えて爆笑し、『テッちゃんも祥ちゃんもマジ女の子だってwwwwww』と肯定した。

嘘だ。信じられない。女の子というのはもっと可憐で、愛らしく、髪がふわふわで、守ってあげたくなる可愛らしい生き物なのに、あのイケメン二人が女…。
黄瀬は頭を抱えて俯くと、武田はほけほけと笑いながら授業の準備の為、一度職員室に戻った。

担任が去った後、女子達はすぐさま席から立ち上がりわらわらと灰崎と黒子を囲み、きゃあきゃあとはしゃぐ。

「ショーゴくんおはよう」

「おう、はよ。あれ?ミサちゃん痩せた?」

「う、うん!今週の休みショーゴくんとプール行くのに太ってたら可愛くないもん!」

ミサちゃんと呼ばれたツインテールの少女はちょっとモジモジさせながら頬を赤らませて答えた。別にこのままでも十分可愛い気がするのにと黄瀬が思った矢先、灰崎は真剣な表情で少女を壁際まで追い詰め、腕の檻の中に閉じ込めた。

「あ、あのショーゴくん…?」

「は?何言ってんの?どんなミサでも可愛いに決まってんじゃん。お前はオレのなんだから」

「で、でも…」

「それともミサは…、オレの言葉が信じられない?」

なぁ、どうなんだ?と赤く色付く耳朶に軽く口付けてから甘い吐息を吹き掛ければ、少女の顔は更に真っ赤に染まり、目がハートになる。

「う、ううん…!ショーゴくんの言葉を信じるよ…!」

「イイコだな。素直な女の子はオレ好きだぜ?」

「ショ、ショーゴくぅん」

「あーん!!ミサちゃん羨ましい!!私もショーゴくんに甘く囁かれたい〜!!」

「あたしだってー!!」

甘い口説きにツインテールの少女はすっかり灰崎にメロメロになり、彼女を囲んでいた他のメイクをバッチリ施したハデめな女子達はまた黄色い悲鳴を上げ、『ショーゴくん、私もメロメロにしてぇ』と甘ったるくおねだりをしていた。

それと対照的に黒子を囲む女の子達は少し大人しめで控えめな子達ばかりだ。先程黄瀬に目もくれなかった桃色のロングヘアーの美少女は、おずおずと黒子に挨拶をした。

「テ、テツ君!おはよう!」

「おはようございます桃井さん。おや、今日は髪型おしゃれですね。編み込みですか?」

「あ、あのね!今朝早起きして頑張ってみたの!に、似合うかな!?」

頬を桃色に染めて懸命に問い掛ける少女に向かって黒子はニッコリと微笑み。

「はい。可愛らしすぎて…」

手からピンクの薔薇を出して、そっと少女に差し出した。

「ボクの気持ちが花になってしまいました。…ボクの気持ち、受け取って頂けますか?」

「テ、テツくぅん…!!」

桃井と呼ばれた少女の目もすぐさまハートに変わり、一輪の薔薇を受け取り、ピンク色の甘い視線をずっと黒子に送り続けた。そしてそれを見ていた他の少女達は『桃井隊長羨ましすぎます〜!!』ときゃいきゃいと騒いでいた。

そんな一部始終をずっと見ていた黄瀬は、あの二人が女子なんて到底信じられず高尾の肩を何度も揺さぶり再度確認の意を込めて問い掛ける。

「ねぇ高尾クン!アレほんとに女なの!?ホストじゃなくて!?」

「アッハハハwwwwww祥ちゃんとテッちゃんのことはリアル宝塚だと思えばいいよーwwwwww」

「いや、思えないっスよ全然――!!」

全く状況が付いてこれない黄瀬の喚きと、草をたくさん生やした高尾の大爆笑と、灰崎と黒子に対する女子の悲鳴が教室中に響き渡り、堪らなくなった生徒指導の教師が『そこのクラスうるさいぞ!!』と注意に来たのであった。
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