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□世界一初恋〜それぞれの初恋のカタチ〜
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世界一初恋〜黒子テツヤ&高尾和成の場合〜


「せっかいいちきーみーにぃー!こーいをしーてるぅー!」

「いちびょうごっともっとすっきっにっなるぅー!」

「「はぁっぴいえんどーにーはまーだとおーいー!」」

「テツヤ、カズナリ。そろそろそれ…、やめない?」

「嫌です☆」

「Bメロ行っくよー☆」

「ソーデスカ…」

灰崎は、黒子に右手、高尾に左手を繋がれたまま、三人で夜の街を歩いていた。

灰崎の住むマンションまで、最寄り駅から徒歩で10分ほど掛かる。だが今は帰宅ラッシュを過ぎていて人気が少ない。だからそれを良いことに先程から影コンビはお気に入りのアニソンを歌いまくっているのだ。

選曲は真面目な名曲からセクハラ一歩手前のネタ曲まで節操なく、無駄に上手いので余計に質が悪い。

黒子も、会社から駆けつけてきた高尾も、灰崎が赤司と虹村に向き合ったことはとても喜んで褒めてくれていたが、虹村とよりを戻すというのはどうも気に入らなかったらしい。

学校から駅までの間も二人からこんな事を散々言われた。

「でも祥吾君、本当に彼で良いんですか!?」

「え…」

「テッちゃんの言う通りだよ祥ちゃん!今ならクーリングオフ可能だよ!?」

「……っ」

灰崎が初めて虹村に抱かれたあの日。自分が失神していた時、二人と虹村は会っていたらしい。
何があったか詳しくは知らないが、二人はどうやら虹村の事をものすごく敵視しているみたいで…。彼との交際はあまり快く思っていないようだ。

だけど、灰崎にとってあそこまで本気で好きになった相手は虹村しかいない。どうしたって彼が良い。だから二人の問い掛けに少し腹が立ち、ピタリと立ち止まる。

「祥吾君?」

「祥ちゃん?」

「二人とも、虹村サンはオレなんかには勿体ないくらいに素敵な人だよ!オレ、虹村サン以外の人を好きになんて…、絶対になれないと思うもん!」

本人の前だと恥ずかしくて絶対に言えない言葉だが。大好きな親友達には自分がどれだけ虹村を好きかって事をきちんと知っておいて欲しかった。
だから顔を真っ赤にしたままそう本音を零せば、黒子はニッコリと微笑みつつ、拳をゴキゴキと鳴らしながらガチ切れしていた。

「あの絶倫野郎!ボクの可愛い祥吾君をたぶらかしやがって!」

「えぇ!?テツヤ!?」

「え!?ナニナニ!?絶倫野郎ってテッちゃんどういうコト!?」

「聞いて下さいよ高尾君!あの人祥吾君が告白していた時、場所が保健室なのにも関わらず可愛い祥吾君にキスして床に押し倒そうとしていたんですよ!!」

「エ!!?」

それを聞いて灰崎はびっくり仰天する。確かに告白した後キスはされたが、まさかこの後、彼が自分を押し倒そうと考えていただなんて夢にも思わなかった…。

全く気付いてなかった灰崎は真っ赤に染まる顔を深く俯かせていた。頭の中では嫌でも初めて抱かれたあの日の事が鮮明に蘇り、もう死ぬ程恥ずかしい。

するとそれを聞いた高尾は目が全く笑ってない笑顔で怖いくらい明るい声を出す。

「え〜!なにそれ〜!和成ちょー激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームなんだけど〜!」

「あっ…」

まずい。このままだと、どんどん虹村の評価は悪くなる一方だ。灰崎は二人から交際を反対されるかもと不安になり、繋がれていた二人の手をきゅっと握り返して震えながら尋ねる。

「二人とも大好きな親友だから…、虹村サンとの交際を認めて欲しいだけど…。だ、駄目か…?」

眉を八の字にしながらおずおずと二人に目線を向けると。

「祥吾君ぐうかわ!!」

「あざとい!捨てられた子犬の瞳はあざとすぎる!!」

「え…」

目が!目がぁぁぁああ!と某ジ○リの悪役のように叫びながらしばらくその場で二人は灰崎のあざと可愛さに悶え転がり、そして五分後には黒子はコホンッと咳払いをした。

「可愛い祥吾君の為です。一億歩譲って二人の交際を認めましょう」

「でも祥ちゃん!別れたくなったらいつでも言うんだぜ?あのヤンデレ絶倫野郎には三分でカタをつけたげるからな!!」

「……」

認めているんだか認めていないんだか…、何だかよく分からない答えを二人から貰った灰崎は最早苦笑を浮かべるしかなかった。

「あ…、でも間違いなく土曜の午前練習が終わったら、虹村さんから会うように言われますよね。祥吾君どうします?」

「え!?」

「やっぱり恋人同士だしー、虹村サンとデートしちゃう?」

「デ、デデ、デート…!?」

二人からそう言われ灰崎は動揺して吃り声になってしまった。そして頭の中で虹村とデートを手を繋いで街を歩く自分の姿を想像し、あまりの恥ずかしさと似合わなさに無理!!と叫んだ。

「無理無理!ゼッテーに無理!!つ、つーか!デ、デートとかガラじゃねぇし!」

耳まで真っ赤に染めてわたわたと首や手を左右に振る灰崎を見て、高尾と黒子は互いの顔を見合わす。


祥ちゃんマジ乙メン!くそかわ!!

なのに信じられるか?その彼氏が保健室のかったい床に押し倒すような絶倫野郎なんだぜ?

絶望した!下半身暴走野郎の彼女がこんな可愛い子羊ちゃんだなんて!!世の中の全てに絶望したぁ!!

初デートは勿論邪魔するべきですよね?

もちあたぼうよ!全力で祥ちゃんといちゃつくぜ!テッちゃん!

彼氏が!空気になるまで!いちゃつくのを!やめない!

彼女の友達の恐ろしさを思い知らせてやんよ!!


と…、超光速でアイコンタクトを交わし合い、はわわっとしてる灰崎の腰に、左右から手を回してぎゅっと抱き着いた。

「…二人ともどした?」

不思議そうに首を傾げて見下ろしてくる灰崎の、赤く染まった顔を覗き込むように見上げて、問い掛ける。

「いきなり外でのデートは緊張しますよね?」

「日本はまだまだ同性愛に偏見あるからイチャイチャもしづれーしさ!」

「あ…」

親友二人やキセキの影響で恋愛観がずれていた灰崎は、高尾に言われてようやく自分の恋愛が人に受け入れられにくいものだと思い出したらしい。

今更ながら保健室だの校内だの…、教師や生徒に見つかったら洒落にならない所でキスや修羅場やセックスをしたことに一気に青ざめた。

これは自分だけの問題ではない。見つかれば虹村も下手すれば職を失いかねないのだ。

「……っ」

顔色を失い震える灰崎を励ますように黒子と高尾は優しく言葉を続ける。

「だから祥吾君の家で、おうちデートするのはどうでしょう?」

「…おうち、デート?」

「ほら、家なら鍵閉めて窓閉めてカーテン引けば他の誰かに見られることないし!好きなだけ虹村サンとイチャイチャ出来るぜ?」

「に、虹村サンが…、オレ、のうち…っ!」

実は気絶した灰崎を送り届けた時に一度来ているのだが、意識がない灰崎は当然その事を知らない。

だから好きな人が自分の家に来るのを想像し、再び顔を真っ赤にして無理!!と叫んだ。

「家とか…、家とか…!!それこそ緊張しちまうだろっ…!!」

見た目に反して随分と初々しい反応する灰崎を可愛いと思いつつ黒子と高尾は更に畳み掛ける。

「なんならボクと高尾君も一緒に居ましょうか?」

「オレWiiを持ってくるからさ!四人でオールでマリカーしようぜ!」

二人でオールでセックスする気の虹村が聞いたら断固拒否しただろう高尾の提案を灰崎は…。

「ほ、ほんとに良いのか…?二人とも土曜は休みだろ?」

おずおずと、嬉しそうに受けた。親友を疑うという選択肢を全く持たない灰崎に、影コンビは『計画通り』と悪い笑みを浮かべた。

とりあえず記念すべき初デートを妨害し、その上虹灰R-18フラグをクラッシュする目処が立って機嫌を治した黒子と高尾は、電車でも人が少ないのを幸いに灰崎を真ん中に三人仲良く並んで座り、マリカーでどのキャラをやるかでキャッキャと盛り上がった。

そしてそのハイテンションのまま深夜に近い街で、控えめではあるが心置きなくコンサートしている。

「か〜ちくどもが〜あつまって〜」

「ぴーきゃーぴーきゃーさわいでるぅ〜」

「……ッ!!」

流石に蜻様の全力アウトなEDはやめて欲しかった。しかも今『か〜ちくどもが〜』の歌い出しのところで自転車で通り掛かった眼鏡の青年がギョッとした眼差しでこちらを見つめていたのが地味にキツい。

早く家に帰りたいと思いながら影コンビの蜻様のEDを聴いていた。勿論、放送禁止用語が飛び出そうになったら近所迷惑だから静かにしなさいと注意をしたが。
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