毛探偵(1)
□存在意義
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貴方がいなければ、自分の存在する意味が見出だせない。
貴方が居たからこそ、僕は今でも生きていけるんです。
聡明さん…。
【存在意義】
「弥太…、腕はまだ痛むっスか?」
替えの包帯を巻いて貰っている時、夏輝が心配そうな表情でこちらを覗き込んできた。
「……」
正直言えば、腕の傷はまだ痛い。痛みのせいで夜は眠れないし、ここの所…。ずっと余計な事ばかり考えている気がする。
だけど、夏輝や遥さんに余計な心配は掛けたくない。だから安心させるように長い髪を優しく撫でた。
「弥太…」
でも夏輝の表情は晴れない。泣くのを必死に堪えて、怪我をしていない方の手をそっと握られた。
「弥太…、無理だけは絶対にしちゃ嫌っスよ…!弥太が苦しむ所…もう見たくないっスから…」
夏輝はそれだけを言って、静かに部屋から出ていった。
誰も居なくなった所で、ボスン、と音を立ててベッドに倒れ込む。
「……」
無理をしているつもりはない。この身体を聡明さんの"器"として使って頂けるなら、僕は十分に幸せだと思っているから。
例えこの身体が怪我をしようとも、死んでしまうとしても。
あの人がこの"器"を必要としてくれる限りは、ずっとあの人だけに付いていく…。
何があっても、絶対に…――。
そう決意を固めていた時、黒い影が僕の腕にそっとすり寄った。
「聡明さん…」
「……」
聡明さんは何も態度を示さないまま、ただ怪我をしている腕にすりすりとすり寄ってくれた。
そのお陰で、少しだけ痛みは和らいだ気がする。
「…ありがとう、ございます…」
「……」
柔らかい毛並みをこしょこしょと撫でて、僕は感謝の言葉を伝えるけど、聡明さんは何も答えないままそっぽ向く。
その態度を照れ隠しだと判断し、僕は小さく微笑んだ。
好きです。
貴方の事だけがずっと好きです。聡明さん。
「ずっと…、側にいさせて下さいね…」
この身体がボロボロになるまで、ずっと…。
そう心の中で呟いて、眠りに誘われるようにゆっくりと瞼を閉じた。
遠ざかっていく意識の中、誰かに頭を撫でられたような気がする。
――当たり前だろうが。バカ弥太郎…。
俺にとってお前は、最高の器だよ…。
-end-
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