毛探偵(1)

□初心者恋愛
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「弥太郎の髪って気持ち良いよな」

「……?」

弥太郎の髪に触れながら俺はポツリと呟く。
黒の瞳がこちらをじっと見つめる。そして小さな紙切れに『そうですか?』と書いて俺に見せてきた。

相変わらず聡明の前でしかこいつは一言も喋らない。その事に少し嫉妬するけど、無口なのも弥太郎の個性だと思って、何も言わない事にした。

「そうそう。髪がすげぇサラサラしてるしよ、枝毛もない。トリートメントとか毎日欠かさずやっているだろ?」

「……」

くしゃくしゃと頭皮を揉むように撫でてやると、気持ち良さそうな顔をして小さくコクンと頷いた。

髪を触れられるのが好きなのかな?
普段では見られない穏やかな表情をしてる。

そんな弥太郎の表情が可愛いなと思って、不意打ちで柔らかい髪に唇を落としてみた。

「っ!? ……!?」

キスした瞬間、弥太郎の身体がビクリと強張り、反射的に一定の距離を取った。
顔を真っ赤にして分かりやすい程に動揺している。その間抜けな姿が可笑しくて、俺は小さく吹き出した。

「ぶはっ!弥太郎…、動揺しすぎ…!」

「…っ、……!」

だって…!だって…!、と言いたげな表情をして金魚のように口をパクパクとさせていた。
あー…、まずいな。オレ基本的にドMキャラの筈だったのに弥太郎の前だとちょっとSになっちまうな。

だってこいつ絶対にオレ以上にドMそうだもん。

「……っ」

唇に触れた所を指先で触れて、弥太郎は顔を真っ赤したまま、目尻に涙を浮かべて泣きそうになっている。

あーあ…、ちょっと意地悪し過ぎたかも知れないな。
恥ずかしがって仔犬のようにプルプルと震えてるし。


だけど弥太郎のそういう所が本当に可愛くて仕方がない。
本当に年がら年中弥太郎と一緒にいれる遥や、聡明が羨ましい。俺なんてあんまり会えないのになぁ。


そう思いながら、ぽすっと肩に凭れた。


「……っ!……!」


あわあわと動揺を露にしてどうしようどうしようと慌て始める弥太郎。
何も喋ってないけど、こいつが何を考えているのかなんて、見ただけで分かる。

自分より少しだけ大きな体にギュッと抱き着いて、すりっと甘えてみる。

「弥太郎。頭なーでて」

「っ…!」

「聡明にやってる時みたいに頭撫でろよ。今、弥太郎に甘えたい気分だからさ」

「……っ」

おずおずと手を伸ばして、遠慮がちに俺の髪に触れる。そしてぎこちないけど優しい手付きで髪を撫でられ、心地良い気分になる。

弥太郎の撫で方ってすげぇ気持ち良いや。なんだか眠くなっちまうな。


「……ふぁぁ」


浅い欠伸をすると、弥太郎の手が顎の方に触れてきた。そしてゴロゴロと撫でられる。

「やたろー…。俺、何か眠くなってきた」

「……」

また紙に鉛筆を走らせて、俺に見せてくる。紙には『寝てても構いませんよ?』と書かれてあった。

いやぁ、弥太郎に撫でられながら寝るのも良いかなぁー?とは思うけど、久々に一緒に過ごしているんだ。
やっぱり起きてこいつを可愛がり倒したい。

「いや、良いや。今度は弥太郎が俺に甘える番だしな」

「………!?」

"甘える"という言葉を聞いた途端、え…!?と言いたげな顔になって、じりじりと俺から後退していく。

そして顔を赤くしたまま、大きく首を横に振っていた。

「なんだよ〜、恥ずかしがる事ないだろ〜?」

「っ…!!」

遠ざかっていく弥太郎の腕を掴んで、ズイッと迫り込む。

「弥太郎。これ以上逃げたらまた優太に頼んで茶髪の特殊能力を使うぞ?」

「っ!!」

ピキっと固まり、真っ赤になっていた顔が一気にサァァっと青ざめた。
弥太郎はゴキブリが苦手みたいだから、時たまにああやって脅してやる事が増えた。

じゃねぇとこいつは甘やかせてくれねぇもん。

「…っ、…っ」

首を横に振って全力で嫌がる弥太郎を抱き寄せて、よしよしと頭を撫でる。

「ははっ。お前が素直に甘えるなら、茶髪能力は使わねぇよ」

「……っ」

緊張で体が強張っている。相変わらず、こうやって密着されるのに慣れてねぇよな。俺なんか毎回優太や圭や荻にやってるけど。

「…!」


あ…、心臓の音が直に聞こえてくる。すげぇドキドキと高鳴ってるや。


まずいな。こんな風に分かりやすく意識されると、こっちまで恥ずかしくなってくる。


「あ…、と…。弥太郎…」

「…っ!!」

「んん…!?」

バッと両手で唇を押さえ付けられる。
何これ?何も言わないでっていう意思表現か何かか?

グイッと両手首を掴んで弥太郎の顔を覗き込んでみると。

「〜〜…っ」

耳まで赤くさせて恥ずかしそうに俯いていた。


ああもう…、こいつ本当に可愛い。俺より背が高くてイケメンなのにこんなに可愛いなんて卑怯だ。


「……弥太郎。目ェ瞑れよ」

「!?」

「いいから」

そういや俺達、恋人同士のくせに一度もキスをした事がないなと思った。
まぁ、お互い付き合う事で精一杯で、頭がそこまで追い付いてなかっただけなんだけどな。


でも、今なら出来る気がする。


「……っ」

ぎゅっと瞼を強く瞑ると同時に触れるだけのキスを交わす。

「んっ……」

その時、ほんの少しだけど弥太郎の声が漏れた。
あ…、弥太郎自身の声を初めて聞いたような気がする。いつもは聡明が弥太郎を使って声を出しているからな。

「……は…ぁ…」

そっと唇を離してやると、顔を隠すように俺の肩に顔を埋めてきた。
優しく頭を撫でて、抱き締めてやる。

やべぇな…。俺の方が4つも上なのに、全然リードとか出来てねぇや。なんかすげぇ恥ずかしい。

こんな時、緒方や聡明ならもっと上手くリード出来るんだろうな。そう考えたら何かと経験豊富であるあいつらの顔をぶん殴りたくなってきた。特に聡明。

「…弥太郎。ごめん、なんか俺…、すげぇ情けないよな…」

顔を真っ赤にして、うぅと唸ると、弥太郎は勢いよく首を左右に振る。

そしてゆっくりと背中に手を回された。


「……、洋さんは…情けない人じゃ…ない…です…」

「……!」


途切れ途切れの弱々しい声が俺にはハッキリ聞こえた。

「洋さんは…、僕なんかよりずっと…、頼りになる…人…ですよ…!」

「弥太郎…」


本来なら喋ってはいけない筈なのに…。それなのに、弥太郎は一生懸命に気持ちを伝えようと言葉にしてくれた。


その事が、嬉しくて堪らない。


「弥太郎…」

「……?」

「ありがとうな…。大好きだ」

「っ!?」

気持ちを伝えて、もう一度唇を塞いでやった。
弥太郎は茹でタコのように顔を真っ赤にさせて、しゅぅぅっと蒸気が沸いていた。

「ははっ!弥太郎、本当に可愛いなっ…!」

「〜〜っっ…!」

恥ずかしそうに俯く弥太郎を強く抱き締めると、ボソボソと耳元で囁かれた。


「僕も…、貴方が好き…です…っ…」


-end-

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