HQ(1)

□黒に狙われた月 *
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――…最悪だ。どうして僕がこの人に付き合わなきゃならないんだ。

月島は己の運の悪さを恨み、相手に気付かれないようため息を付いていた。
時刻は深夜の1時。本来なら合宿の就寝時刻はとっくに過ぎ、部屋で雑魚寝している筈なんだ。なのに何故か月島は浴槽場にいた。しかも音駒高校の黒尾鉄朗と二人で。

今日も練習が終えてから第3体育館で、黒尾と木兎に捕まってしまい居残り練習をさせられる羽目になってしまったのだ。勿論その場には赤葦もいた。
まぁ、練習自体は別に良い。最近は少しだけこの面子で練習するのも悪くないと思えてきたし、山口のあの一言のお陰でバレーに対する姿勢も変わってきた。

しかし、これだけは納得出来ない…。

どうして月島が、黒尾の風呂に付き合わなきゃならないのだ。

しかも助けを求めても木兎は当てにならないし、唯一良心な赤葦でさえ哀れの目でこちらを見つめ『ま、頑張れ』とだけ言って月島を見捨てた。

結局逃げる術を失った月島は楽しげな黒尾に引き摺られるまま浴槽に連行され、今に至るという訳だ。

全く持って意味が分からない。何故黒尾は他校である月島にいちいち絡んでは馴れ馴れしく接してくるのだろうか。敵に好意的な態度を取っても何も意味など成さないだろうに。

「ツッキーてよ、ホント体ほっそいよなぁー」

「…………はい?」

突然の黒尾の声に体を洗っていた月島の手は止まる。湯槽に浸かる黒尾に振り返ると、彼の表情は異様にニヤニヤしていて思わず鳥肌が立つ。

これは、何かを企んでいる顔だ。絶対にそうだ。

「なんですか…?いきなり…」

「いや、こんなに細いのに普段なに食ったら背が高くなるのかなと思ってさ」

「ちょ、急に上がらないで下さいよ…!」

よっ…と、と黒尾は湯槽から上がりじりじりと月島に近付いてくる。無論剥き出しの下半身をタオルで隠す考えなど黒尾にはない。いくら同性と言えど目のやり場に困った月島は彼に背を向け、体を洗うことしか出来ない。しかし黒尾が急にその手を掴み、月島の背中に不必要に密着した。

「ツッキー、体洗ってやろうか?」

………この人は急に何を言い出すのだろうか?

男の体を洗って何の利益がある?後、肌を密着させるのはやめて欲しい。他人に体を触られるのなんて不快だし、黒尾の場合は嫌な予感しかしなくて、はっきり言って不気味だ。

「いや結構です」

「そんなつれないことを言うなって!」

「ちょっ、結構ですって!離っ…!?」

断った直後、首に腕を回されて薄く張った筋肉に触れられた。反射で体はビクリと反応し、月島の抵抗は途中で途切れる。

「へぇ…、あんま筋肉ないのな。腰もすげぇ細いし」

「どこ触って…!?っ…、や、め…!」

「んー?体洗ってやってるんだよ。ホラ、こことかちゃんと洗えてねぇだろ?」

「やめッ…!黒尾さッ…、んんッ…!」

腹筋を撫でるように触れていた黒尾の長い指先が徐々に上へと上がり、胸の突起を転がすように弄り始めてきた。ボディソープのぬるっとした感触が余計に快感を強くし、段々と体が熱を持ち始める。

明らかなセクハラ行為に月島はカッとなり黒尾の手首を掴み、『やめて下さい』と叫ぼうとしたが。

「駄目だってツッキー。ここも洗ってやるからイイ子にしてな」

「ぅ、あッ…!?」

黒尾の手がタオルで隠していた陰茎を取り出し、竿を容赦なく擦られる。

「や、め…!やめて下さい…ってば…!ふッ、ぅぅ…」

「あっれ〜?俺は体を洗ってるだけなのに、何でツッキーのチンコ…勃ってんの?」

ジュブジュブと卑猥な音を立て、わざとらしく問い掛ける黒尾に苛立ちを覚え、月島はギッと彼を強く睨む。

「貴方が…、変な風に…、さ、わる…からデショ……!?」

そりゃ、陰茎を揉まれたり手のひらで擦られたら己の意思関係なく整理現象で勃起してしまう。すると黒尾は『フーン?』と機嫌良く笑い、いきなり爪先を尿道に沈めて更に強い快楽を与える。

「ふ、ぅ…!?」

「じゃあ、俺の手でツッキーは気持ち良くなったんだ?じゃ、責任取らなきゃな」

「責任って…、なに…!?うわっ…」

泡だらけになっていた月島の体をシャワーで流してから、向かい合わせの体勢になる。月島から見た黒尾の瞳はやけに野性的で、空腹で餌に飢えたチータそのもの。瞬時に喰われると身の危険を感じた月島は表情を青ざめ逃げようとするが、黒尾の手が細い太股を掴み、腹に膝が付くくらい開脚させ、舌舐めずりをしてから固く勃ち上がった陰茎を口内に招き入れた。

「ひ、ぁッ…!?く、ろお…さん!?やめッ…!!」

何だこれは。突然の口淫に月島の思考は弾けそうだ。あの黒尾が月島の性器を舐めている。裏筋から丁寧に舌を這わせ、時折ジュッと強く吸ってくる。
自慰行為すらマトモにしていない月島には刺激が強すぎて、質量はどんどん増してくる。

「ぅぅッ…!ふ、ぁ…!はな、して…、なんの…悪ふざけですか…、こ、れは…!」

「ハハッ、悪ふざけでこんなこと出来るかよ。…気持ち良いんだろ?イカせてあげるから、可愛く鳴き喘いでろ」

「ふ、んぅ…――ッ!ぅ、はぁ…、ぁッ…!ぅぅ…!」

冗談じゃない。ここは合宿所の風呂場なんだぞ。声を出せば浴槽に響くし、誰かにこんな所を見られたら洒落にならない。月島は絶対に声を出して堪るかと唇をキツく噛み締め、黒尾の頭を両手で必死に押す。

しかし。

「ん、…ここか?ツッキーの気持ちいいトコ」

「ぅ、ぁぁッ…!?い、やだ…!ふ、ぁっ、ひッ、ぅ…!」

「おお、ビンゴ」

尿道に舌を埋められ鈴口を何度もぴちゃぴちゃと舐められる。その瞬間、月島の腰は仰け反り返り、両足を強く痙攣させた。

「ぁぁッ…、ん!うッ…!く…!や、めろ…!や、ぁ…!」

「可愛い…、ツッキー腰揺れてるぜ?」

「くッ…、くろお、さ、ぁ…!あ、ぁぁッ…!」

初めて感じる、背筋に電流が流れる感覚と、上り詰めた快楽が弾ける瞬間。とうとう激しい刺激に耐えきれなくなった月島は黒尾の口に精液を吐き出してしまい、瞼の裏がじわりと熱くなる。今自分が羞恥と恐怖ですごく泣きそうなことは理解した。しかし、それもそうだ。だって自分は黒尾に襲われているのだ。いきなり体を厭らしく触られ、性器を擦り付けられ、口淫されて、怖くなって当たり前だろう。

「…スッゲー濃い…。ツッキーまさか、オナニーしたことがないとか?」

「――…」

「いや、いくら堅物って言ってもオナニーくらいはあるよな?ツッキー……、ッ!?」

「…ッ、……くッ…、ふ…」

タイルに倒れていた月島の体を抱き上げ、俯いていた顔を覗き込んだ瞬間、黒尾の表情は驚きで硬直した。それもその筈だ。ストイックであまり感情を露にしない月島が、幼子のように涙をボロボロに流し、声を押し殺し嗚咽を上げているのだ。驚いても仕方がないだろう。

「え!?ツ、ツッキー…!?どうした、どっか気分でも悪くなったか!?」

「――…んでっ…」

「えっ?」

「な、んで…、こんな悪ふざけ…したんですか…?いくら何でも…、酷すぎ…でしょ…!」

「あー…」

月島が泣いてる原因が分かった黒尾は、なんであの時点で分からねぇかなと月島の鈍さに思わず苦笑した。自分より少しだけ背の高い月島を膝の上に乗せ、腕の中に閉じ込める。そして触られることに恐怖心を覚え、怯える月島の濡れた瞼にちゅ、と唇を落とし優しく濡れた髪を撫でた。

「ごめんごめん。本当悪ふざけじゃねーんだって」

「…じゃあ、何の嫌がらせですかっ…」

「嫌がらせじゃねぇって。つか、やっぱり俺のアプローチに全く気付いてくれなかったのな」

「は……?」

アプローチとは一体何の話だと、眉をひそめた時、不意に黒尾の整った顔が睫毛が触れ合うくらいに近付き、そのまま唇を奪われた。

「……っ」

唐突の口付けに月島は泣き濡れたせいで潤む瞳で、瞼を閉じ幾度となく唇を重ねる黒尾を呆然と見つめた。
ああ、キスされているんだと真っ白になった頭が漸く理解した時には、もう互いの唇は離れていて、でも黒尾の顔は近いままで…――。もうワケが分からないと、また涙で膜を張る。

「…あのさ、普通好きじゃなきゃ野郎にキスなんかしないと思うけど」

「……は?好き…?誰が誰を…?」

「俺がツッキーを」

「意味が分からないです」

「……」

黒尾が月島を好き?何で?今まで彼と接点なんて何一つなかった。前にやった練習試合の時だって、あまり会話はしなかったし、今回の合宿での自主練で少し親しくなっただけだ。それに自分は誰かに好かれる要素なんて持ち合わせていないし、むしろ卑屈な発言や他人を小馬鹿にする態度ばかり取り、意識的に壁を作ってしまいがちだ。

そんな自分を黒尾は今好きだと言った。キスまでした。何で?どうして?の疑問ばかりが頭を埋め尽くされ、何も返事が返せなかった。黒尾の顔も真っ直ぐに見れなくなった。
そんな恋愛不器用な月島に黒尾は再び苦笑を浮かべ、月島の頬を両手で添え、もう一度互いの唇を重ねた。

「…!」

「意味が分からないなら、無理矢理でも分からせるしかないよな?…まぁ、今日は流石に勘弁してやるけど、明日からは覚悟しとけよツッキー」

「……覚悟って…?何の…」

「ん?だから、明日からは隙があればツッキーを口説き落とすし、油断してたらパックリ喰うからな?俺」

「……」

口説き落とす?パックリ喰う?それはつまり黒尾は好きだの俺のモンになれだの少女漫画みたいな甘ったるいセリフを月島に言うということだし、無防備でいたら最後まで抱かれるってことか…?

……………。

「は、はぁ!?ちょっと、冗談も大概にして下さいよ!!」

漸く自分のバックバージンを奪われるという危機を感じた月島は顔を真っ青に染め上げ黒尾の腕の中で暴れるが、力は圧倒的に黒尾の方が強い為あっさりと押さえ込まれる。どう足掻いても逃げられないという絶望的な状況に、小動物のように震えると、黒尾は可笑しげに笑い。

「だから今日は何もしないって」

と言いつつも月島の顔中にひたすらキスの雨を降らせた。

「言ってることとやってることが全然違います!!」

「キスくらいは勘弁して下さい。本来ならこのまま抱いてる所だったんだからな」

「…そ、んなの…!僕は知りませんよ!貴方が勝手にっ…、ん、んぅ――…ッ!」

抵抗の言葉も言わせない気が今まで触れるだけのキスが急に深いモノへと変わり、口腔を黒尾の思うままに蹂躙される月島は息の仕方も抵抗も出来ないまま、ただひたすら黒尾の背中を叩くことしか出来なかった。

明日から黒尾の大胆な口説き攻撃に翻弄され、胃が痛くなりそうだ…――。


-end-

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