おそ松さん
□"兄さん"と呼べない訳
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※キャラ崩壊、過去捏造注意。
「ひっぐ…、一松が…、俺にだけ兄さんって呼んでくれない…」
「「あー…」」
またかと思いながら、ひぐひぐと泣きぐずる次男の頭を、長男であるおそ松と三男であるチョロ松はよしよしと優しく撫でてあげていた。
――何故カラ松がギャン泣きしているのかは数十分前に遡る。
平日の昼下がり。相変わらず就活もせずニート生活を満喫しているおそ松とカラ松は、珍しくパチンコで稼いだ金で酒を飲んでいた。と、言ってもカラ松は酒が苦手な為ミネラルウォーターを片手にクールにスルメをくわえていたが(ちなみに全然格好良くない。むしろウザい)。
我が兄ながらなんてだらしない姿なんだ。昼間っぱから酒を煽るなんて。と呆れていたチョロ松は求人誌を読み漁りつつ、職探しに励んでいたがおそ松が一松の話題を出した途端カラ松が溜まっていた何かを爆発させるかのように急に泣き出してしまったのだ。そして現在に至る。
確かに四男の一松はカラ松に対して特に冷たい。普段から鬱陶しがっているし、絡まれた時なんて胸ぐらを掴んで怯ませるのが当たり前。何より、カラ松が先程言っていた通り一松は彼を兄さんと呼ぶことがなくなってしまった。幼い頃は普通に『カラ松兄さん』と呼んでいたし、仲良くしていたというのに。
「俺っ…、きっと一松に嫌われるようなことっ、したんだ…!だ、から一松…、いつも俺のこと、な、ぐるんだぁ…」
泣きすぎたせいかいつもより若干幼くなっているカラ松の言葉にチョロ松は一瞬うぐっと言葉を詰まらせる。まぁ一松が彼を鬱陶しがる気持ちも多少は分かるのだ。普段からカラ松の痛々しい言動とファッションセンスのなさ。カラ松Girlを結成させたい一心で女子から格好良く見られようと必死にアピールしつつも、結局は無視され撃沈する姿。正直ダサいし、ウザいと思うし、出来れば一緒に街を出歩きたくないレベルだ。
だが、カラ松にはカラ松なりに良い所はたくさんあるのだ。面倒見がすごく良いから五男の十四松と末っ子のトド松からには懐かれているし、きっと一松も彼を心の底から嫌っている筈がない。
だから何とかフォローしようとチョロ松が慰めの言葉を掛けようとしたのに。
「いや、そんなことないy…」
「なんだカラ松今更気が付いたのか〜」
「オイィィィィおそ松兄さんんんんん!!?」
よりにもよって長男であるおそ松がけらけらと笑いながらあっさりと肯定しやがったのだ。
「や、やっぱり…、そうだったのか…!」
その言葉にカラ松は当然ショックを受け、ぼろぼろと涙を零す。
「いやいや何言ってんのおそ松兄さん!!そ、そんなことないって!カラm…」
「うん。だってお前普段からウザいしな!」
「うぐっ!」
「言動は若干厨二で見てるだけで痛いし!」
「うぅっ!」
「一松がお前を嫌う理由も俺納得しちゃうわー!」
「うっ、うわぁぁぁんっ!!」
「もうやめたげてよ!!カラ松のライフはゼロだよ!!」
何て兄だ。チョロ松が心の中で思っていたことを全て本人に吐き出すだなんて。これじゃあカラ松があまりにも不憫だ。可哀想だ。テーブルに突っ伏して泣き喚くカラ松を抱き締めながらチョロ松が必死に庇おうとすると、『でーも』と言葉を続ける。
「一松がカラ松を『兄さん』って呼ばなくなったのはさ、もっと他に理由があるんじゃないの?」
「う、ぇっ…?」
「一松だって弟なんだからカラ松のこと本当に嫌いになった訳じゃないと思うよ。そりゃ普段は冷たいけどさ、あれも反抗期だと思えば可愛いもんだよ〜」
「は、んこうき…?」
「あれは可愛いのかな…?」
被害に合ってないチョロ松でもあれが可愛いとはあまり思えないのだから被害者であるカラ松なんて余計に理解不能だろう。でもおそ松が言っていることがほんの少し理解出来るのか、こくんと頷き拙く肯定した。
「た、しかに…、一松はかわいい…な。それは分かる…」
「ははっ、でしょ〜?」
「嘘でしょカラ松!?どんだけ一松に甘いの!?」
カラ松が一松を甘やかすから彼から煙たがれるし、毎回泣かされるのでは!?とチョロ松はツッコみそうになったが更なる爆弾発言がおそ松から投下される。
「だからさぁ、毎回俺らの所に泣きつかなくても直接本人に聞けばいいじゃん。一松今ここにいるし!」
「……………は?」
「……………え?」
――今おそ松は何と言ったのだろうか…?
思わずフリーズするチョロ松とカラ松を他所に、おそ松はえらく上機嫌な声で襖の外にいる物陰に声を掛けた。
「いい加減入ってこいよ一松ぅ。盗み聞きなんて趣味悪いぞー。」
「………」
少し間が空いた後、一松は不機嫌な表情のまま襖を開けて部屋に入ってきた。
「わーー!?一松!!?いつからここにいたの!?」
「最初からだよ。なっ、一松!」
「気付いていたなら初めから言ってあげてよおそ松兄さん!!」
気付いていたら聞きにくいであろうカラ松の代わりにチョロ松が訳を聞いてあげることだって出来たのに。
「まーまーチョロ松!ここは当人同士の問題だからさ、俺らはちょっと外に出てようよ」
「え!?二人きりにするの!?一松今機嫌が悪いのに!?」
「機嫌の悪い一松の対応なんてカラ松なら簡単に出来ちゃうでしょ!ほーらお邪魔虫は退散たいさーん!」
「ああちょっ、一松!またカラ松を泣かしちゃ駄目だからねー!!」
おそ松から無理矢理背中を押されるチョロ松はせめてとばかりに一松に一言注意してからおそ松と共に部屋から退散した。
――そしてカラ松と一松の二人きりになる。
「……っ」
どうしよう。泣いていたらまた舌打ちされる。鬱陶しがられる。嫌われてしまう。
早く、早く泣き止まないととカラ松は服の袖で涙を止めようと乱雑に拭うが駄目だ。気が焦れば焦る程涙は余計に溢れてしまうし、殴られる恐怖心からか身が強張って震えが止まらない。
「……ひくっ…、うぅっ…」
めそめそと泣き続けるカラ松を煩わしく思ったのか、一松は面倒そうに短いため息をついて、向かい合うように腰を降ろした。
「……さっきのは何?」
「ひっ…!一松…ごめん…!泣いててごめん!鬱陶しくてごめっ…」
「言ってない」
「…っ」
だから殴らないでと請おうとしたカラ松の言葉を一松は遮り、もう一度問う。
「誰もそんなこと言ってない。…さっきのはアレは何?って聞いてるだけなんだけど」
「そ、れは……」
既に全部聞かれたとしても、いざ本人を目の前にするとやはり言い難い。あー、うー、と目を彷徨わせ、中々言い出そうとしない自分に今度こそ煩わしく思ったのだろう一松はカラ松の胸ぐらをぐっと至近距離で質問…というより尋問を続ける。
「アンタ、俺に兄さんって呼んで欲しくて毎回おそ松兄さん達に泣きついていたの?」
「…うっ………あ、ああ……」
不機嫌を露わにした一松に怖がりであるカラ松が勝てる筈がない。観念してこくりと小さく頷き、涙ですっかり潤んでしまった瞳でじっと一松を見つめ、恐る恐る問い掛ける。
「一松…、ど、して…俺のこと『兄さん』って呼んでくれなくなったんだ…?おそ松兄さんやチョロ松のことは兄さんって呼んでるのにっ…」
なんで俺だけ呼び捨てになった?いや俺に対してだけ冷たくなった?と一松の服を弱々しく掴みながら問い、恐怖に怯えながら彼の答えを待っていると…――。
「……カラ松を兄さんとして見れなくなったから。それ以外に答えなんてあるの?」
「――…っ」
カラ松にとってはあまりにも残酷で一番聞きたくなかった答えをはっきりと告げられてしまった。
――今、トンカチで頭を強く殴られた感じだ。そうか。やっぱり自分は一松から嫌われていたのか。どうしよう。内心では分かっていたのに、実際そう聞かされては、ショックで立ち直れなくなる。
でも泣いてばかりでは駄目だ。そこは『お前が俺を嫌いでも俺は一松のことが大好きだぜ!可愛い弟だからな!』くらい格好良く言ってやらなければ。じゃないと一松が気を悪くする。また困らせてしまう。余計に嫌われてしまう。
震える唇を強く噛み締め、笑みを作ろうとしたが、しかし実際に溢れた言葉は格好良さなど微塵もなかった。
「そう…か…。一松は俺のこと、嫌いなんだな…」
「は…?なに言って…」
「だ、ったら…もっと早く言ってくれたらよかったじゃないか…!言ってくれたらっ…、一松に声掛けずに済んだのに…!」
こちらが昔のように仲良くしたいと願っていても、向こうがその気ではないのなら、仕方ないともっと早くから諦めることが出来た。勿論寂しさはある。だけど絡むことで余計に嫌われてしまうのなら、最初から諦めた方がずっとマシだ。
一松と一緒にいることさえもう辛くて耐え切れなくなったカラ松は急いで立ち上がりこの部屋から出て行こうとしたが、その腕を一松が強く掴み、勢いよくカラ松を畳の上に押し倒した。
「……い、いち、まつ…?」
「……何それ、本気で言ってるワケ?」
「え……?」
「俺に声掛けずに済んだ…?何?カラ松は俺のこと嫌いになったの?」
「ち、ちがっ…!お前が俺のこと嫌いなんだろ…んぐ!?」
どうして大切な弟のことを俺が嫌わないといけないと言おうとした瞬間、手で唇を無理矢理押さえつけられ。
「あーもううっさい…。言い訳とかそういうの…、聞きたくないんだよ」
「んッ…!?」
唇から手を離された瞬間、代わりとばかりに今度は彼の唇がカラ松の唇を噛み付くように塞ぎ、始めから抵抗なんか出来ないよう力強く肩を畳に押えつけた。