おそ松さん

□もうちょっと長男に甘えろよ
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チビ太に誘拐をされた一件以来、兄弟達から無視をされた挙句酷い仕打ちを受けたせいで全身大怪我をしてしまったカラ松は皆と同じ布団で眠ることを拒むようになってしまった。普段はあまり怒らないカラ松でも流石にアレは堪忍袋の緒が切れてしまったのではないかと不安を感じたチョロ松と十四松とトド松は申し訳なさそうな顔をしておずおずと謝るが、カラ松本人はけろっとした表情でサングラスをかけて。

「フッ、何だお前達そんなことを気にしていたのか。あまり気に病むな、俺はそんな細かいことを気にする程小さな男じゃないぜ」

と、いつもと変わらない調子であっさり許してくれた。それに安心した三人は『なーんだ。謝って損しちゃったー』『てか何で家の中でもサングラスかけるのさー?』と軽い調子で笑って聞けば、カラ松はドヤ顔で『怪我をしている状態でかけるとなかなか格好良いだろう?これも一種のお洒落だ』と答えたので一松が一言『ウザい』と言い放ち、彼を邪気に扱った。そんないつもと変わらない弟達の反応に彼は『なんだよー!お前達全然反省してないだろー!』と笑っていたが、でも長男であるおそ松だけは気付いていた。

――何故カラ松が皆と一緒に寝なくなってしまったのかを。


【もうちょっと長男に甘えろよ】


「カラ松兄さんまだ怪我治んないのかなぁ」

六人一緒に眠れないことが寂しいのか十四松は枕をぎゅうっと抱きしめながら足をばたばたとばたつかせた。その姿にチョロ松は苦笑して彼の頭をくしゃりと撫でる。

「仕方ないよ。カラ松は大怪我してるからね。寝相が悪い俺らと一緒に寝る訳にはいかないさ」

「でもさ、カラ松兄さんがいない分布団のスペースが広くなって良いよねー」

「確かに」

「ちょっとトド松と一松…、お前ら本当に反省してる?」

「「してるしてるー」」

「本当かぁ…?」

全く反省が見えない二人にチョロ松はため息をつき布団の中に潜る。
カラ松の怪我は全治3ヶ月だと母から聞いた。それはそうだ腕と足を骨折した上、一松に容赦なく石臼でトドメを刺され、頭を切ってしまったのだから重症を負うのも致し方ない。
本人は弟達に余計な心配を掛けさせたくないのか『こんな軽い怪我すぐ治してみせるからな』と笑っていたが、起きるにも骨に響くのか顔を歪めて億劫そうにしていた。

恐らく今日も寝転ぶのに一苦労しているに違いない。

――よし。

「あれ?おそ松兄さんどうしたの?」

「トイレー?」

急にのそのそと起き上がった兄にまだ眠っていなかったチョロ松と十四松は首を傾げた。

「あー、俺今日はカラ松と一緒に寝るわ」

「へ?どうして?」

「んー?一人じゃ何かと大変だと思ってな。たまには長男らしいことをしてやらないと」

「あ、じゃあ俺も行こうか?俺もカラ松心配だし」

「あー…」

きっとチョロ松が来るとカラ松が一緒に寝るのを頑なに嫌がるかも知れない。折角の好意だがここはお断りすることにしよう。

「いや俺一人で大丈夫だから。チョロ松はコイツらのお守り頼むわ」

「あー、うん。分かった」

一緒に行くと言ったチョロ松があまり深入りしてくれなかったのは助かった。適当に『んじゃ、おやすみー』と笑ってから襖を閉め、カラ松が眠っているだろう寝室へと向かう。多分今日も眠っていないのだろう。今日こそはきちんと寝かせてあげなければ。

「よぉカラ松ぅ。まだ起きてるかー?」

静かに襖を開け、カラ松に声を掛けると、彼はおそ松の声に聞こえてなかったのか、反応はなく、横たわりもせずただぼんやりと窓から見える満月をぼんやりと眺めていた。

「………」

――やっぱり寝てない。

昨日あれ程少しは寝ろと釘を刺したのに、何故また起きているのか。サングラスをかけているから凝らして見ないと気付かないが、目元にはしっかりと隈が出来ている。だから寝不足の筈なのに。

「……」

カラ松が皆と一緒に寝なくなった理由は不眠症になってしまったからだとおそ松は考察する。一緒の布団で一人だけ起きていると彼の隣で眠る一松とトド松が気にして眠れなくなる。弟達に余計な心配を掛けたくないから、彼は怪我を理由にして別室で眠ることを希望したのだと思う。…多分。

――俺達のせいで大怪我してる癖になーに気を遣っているんだか。

兄である自分の前では弱い所をどんどん曝け出してしまえばいいのに。そしたら腕の中でいっぱい泣かせて甘やかしてやることも出来るのに。

甘え下手で困った次男だと苦笑しながらおそ松は頭を乱雑にかき、傷口や骨に響かない程度に彼の肩にゆっくり腕を回して再度明るく声をかける。

「カラ松ぅ〜」

「!?おそ松兄さん…!?なんで…」

触れられてようやくおそ松がそこに居たことに気付いたのかカラ松は目をぱちくりとさせ、どうして寝てないと言いたげな目線を送った。

「いやー、今日はお前と一緒に寝ようと思ってさー。なぁ隣に布団敷いていいか?」

「えっ……、あ、いや…」

一瞬カラ松の肩がビクリと拒んだがすぐ普段通りの厨二病の態度を演じ月夜をバックにフッと微笑む。

「すまない兄さん。今日の俺は孤独を愛する男なんだ。悪いが一人にさせてくれないか?」

「……」

予想はしていたが、案の定断りやがった。しかも相手がわざと苛つく言葉を選んで。だがおそ松には分かっている。それがカラ松の拒み方だと。厨二病を発揮させれば大概の人は自分から遠ざかる。そのことを彼は熟知してるからわざとそう演じるのだ。

だから…――。

「…駄目だ。一人にしたらお前また朝方まで起きてるだろ」

「……っ」

カラ松の拒絶をバッサリと却下し、彼の隣に腰を降ろし胡座をかく。自分の言葉に彼はあからさまに動揺を露にし、額から冷汗を流す。まさかこいつ、不眠症だということを隠し通しているつもりだったのか?

おそ松はずっと気になっていた不眠症の理由を聞こうと軽い調子で訪ねてみた。

「どした?最近眠れてないみたいだけど」

「…え?」

「傷や骨に痛んで眠れないのか?」

「えっ!?あ、ああ!そうなんだよ!流石の俺もこの傷の痛みには耐えられなくてなぁ。本当参ったもんだ。あはっ、ははははっ」

「嘘だな」

「はっ……」

誰がどう見ても嘘だと分かる。しかも今のは、仮にも元演劇部だというのに、あまりにもお粗末な演技だった。本当にこいつ演劇部だったのかなー?と疑問を抱きながら、固まるカラ松の頭をポンッと軽く手を置いた。

「相変わらず大根役者だなー。そんなんで俺に誤魔化しがきくとでも思ったのかよ」

「な、何言っているんだよおそ松兄さん。俺は本当に怪我で眠れなかっただけ…」

「だったらお前、なんで最近目を覚ました途端慌てて飛び起きる訳?」

「――……っ」

おそ松の疑問の言葉にカラ松の目は大きく見開いて、沈黙する。
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