おそ松さん
□キス以上が出来ない四男と次男の話。
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Side.カラ松
一松のキスはいつも唐突で強引だ。皆がテレビに夢中になっている隙を見ていきなり胸ぐらを掴んで軽いキスをしたり、皆が寝沈んた後、静かに一松が俺の上体に覆い被さり、口内に舌を挿れられ、ねちっこくて長いキスをされたりする。なので正直俺の心臓は爆発寸前だ。毎回毎回弟に好きなように振り回されてしまうのだから、自分でも情けない兄だと思う。まぁ、キスしてる時の一松の表情、普段の仏頂面に比べたら優しい方なので結局は好きなんだが。
でも、まだキス以上のことはしたことない。いや、家族が誰もいない時何度かそういう雰囲気になったことはあるが、どういうことかいつも一松から『やっぱり…、今日はいいや。やめよう。緊張して上手く出来ない』と言われてしまうのだ。それが内心ショックで、しかし一松が緊張するなら強要する訳にもいかず、『あ、ああ、そっか…、そうだな!ごめんな』と言って結局キス以外は何も出来ず仕舞いで終わる。
「……はぁ」
やっぱり俺に魅力がないのだろうか。いやでも付き合い始めてからの一松は随分と優しくなったと思う。強引な所は変わらないが、照れた顔を見せてくれるようになったり、二人きりの時は少しだけ笑うことも増えた。だから一松が俺のことを好いてくれているのはよく分かるし、疑いの気持ちなど1つもない。
「……じゃあ俺が発情しすぎているだけ…とか…!?」
多分そっちの可能性の方が充分高い。そう自覚したら顔の熱が急に高くなり、今、自分の頬は真っ赤に染まっていると鏡を見なくて分かる。
「うわぁぁぁぁ!!!」
――ああ、すまない一松!こんな淫らで変態な兄貴で!!
ちゃぶ台に顔を突っ伏して羞恥心でもだもだと悶絶していると襖の開く音が聞こえた。しまった!誰か帰ってきたのかと顔を勢いよく上げると。
「チョ、チョロ松!」
腰に手を当てながら、やけに機嫌が悪いチョロ松が入ってきた。な、なんだチョロ松か。だったら別に問題ない。チョロ松はおそ松兄さんと付き合っているから、俺と一松の関係も知っているし、よくお互いの相談に乗ったりするから、一番気を許せる存在だ。
「なんだチョロ松。どうしたんだ?腰に手なんか当てて」
「カ、カラ松ぅぅぅ…!」
「うお!?」
勢いよくチョロ松がこちらに向かって抱き着いてきたので、急な突進に俺は支えてやれることが出来ず、そのまま押し倒される形で畳に倒れた。
「ど、どうしたんだチョロ松!?一体何が…!?」
「腰が…!」
「こ、腰…!?」
「腰が痛いんだ…!悪いけどまたマッサージしてくれないかな…?」
「……」
涙目になりながらこちらをじっと見つめてくる弟の姿に、俺は全てを察した。昨夜またおそ松兄さんに何度も何度も激しく抱かれたのだろう。あの二人は一昔前の恋人がよく使う恋のABCで言えばCの関係なのだから。しかもチョロ松の話を聞く限りではおそ松兄さんはかなりの絶倫…らしいし。
「ああ、分かった。そのお疲れ…」
同情の意味も込め、取り敢えず労いの言葉を掛けてやり、俺は慣れた手つきでチョロ松を畳の上に俯かせ、セックスのアフターケアを開始する。もうこれで何度目なのかよく分からない。自分でもセックスの経験がないというのに。
「あの絶倫野郎!!5回も連続でするなんて本当あり得ないっ!!」
「ご、5回か…」
「そうなんだよ!もう出ないって言ってるのにあの人『大丈夫大丈夫!チョロ松はやれば出来る子だから』とか適当なこと言って無理矢理フェラして射精させようとするんだもん!どう思うカラ松!?」
「え…!?」
いつものようにおそ松兄さんに対する不満や愚痴だけを溢すのかと思えば急に意見を求められ、俺は思わず戸惑った。どう思うか…。どう思うと言われてもな…。そもそも一松とはCどころかBの関係も至ってないのだ。だから具体的にセックスとはどういう感じなのか俺には想像出来ないし、どう意見を言ってやれば良いのかも分からない。
――ああ、でもこれだけは正直思ってしまうな。
「……俺は正直、チョロ松が羨ましい…」
「…………は?」
目をパチパチと瞬きさせながらチョロ松は、え?ちょっとカラ松正気?大丈夫?と言いたげな目で俺を見ていた。あ、しまった。今の発言だとマゾ的な意味で勘違いされてしまう。
「あっ待て違うぞ!?別にメチャクチャに抱かれたいとかそういう意味で羨ましいと言ったんじゃないからな!?」
「あ…、良かった…!カラ松が本当にドMなったんじゃないかと焦っちゃったよ俺!」
「違う!ただ、そうやって求められることが羨ましいなって思っただけだ…。一松とはそういう雰囲気になっても途中でやめようと言われてしまうから」
「…………え?」
ああ、どうしよう。自分で言っといて悲しくなってきた。一松が緊張するなら兄らしくそれを解してやれば良いのに、恋人になってしまった以来、一松の前ではどうも"兄らしさ"など見せられなくなってしまった。どっかの恋する乙女のようにいつも顔を真っ赤にさせて、アイツの言葉や行動に一喜一憂などして、男らしさなんて欠片もなくなってしまった。
己の情けなさを充分に自覚し、再び落ち込んでいると頭を抱えたチョロ松が『ちょっと待ってカラ松!本当に待って!?』戸惑いながら待ったを掛けた。な、何だ一体…?
「どうしたチョロ松?」
「一松とカラ松って…、その"まだ"なの…?」
「まだとは?」
「いや、だっ、だから!せ、せっくす…のことだよ…!!」
"フェラ"は声を大にして言える癖に"セックス"は恥じらいなしでは言えないのか。そんな顔を真っ赤にさせてもじもじしなくても良いのに。今家におそ松兄さんがいなくて本当に良かった。もしチョロ松の恥じらう姿を兄さんが見てしまったら間違いなく欲情し、暴走するだろう。そんなことを思いながら『ま、まあな』とだけ肯定する。
「一松が緊張するらしいからキス以外はまだしてない…」
「は!?緊張!?あの一松が!?」
「ああ。……そんなに驚くことか?」
一松とて人間なのだから緊張することだってあるだろうに。
「いやだって…!その、正直意外すぎて…」
「意外?」
「うん。一松のことだから付き合って初日でカラ松を抱いただろうなって思ってたんだよ。アイツお前と付き合う前から色々と我慢してたみたいだし」
「え……?が、我慢って何を…?」
「そりゃ、うっかり理性を手放してカラ松を抱いてしまわないようにでしょ?」
「………は?」
俺を抱いてしまわないように?え?え?あの一松が…?
………。
「いやいやいやそれこそあり得ないだろう!!だだ、だって一松はいつも途中でやめようって言うし…!!」
「どうせカラ松が怯えた反応とかしてるんじゃないの?それで一松は気を遣ったとか」
「ち、違う!俺は怯えた反応なんて一度もしていない!!…むしろ、もっと触って欲しいって思いながら一松に身を任せているっ…」
「……カラ松」