ちいさな恋

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年が明けた。今日は新ちゃんと初詣。
人混みの中何とか二人でお詣りをしておみくじを引いた、まではよかったのだけど…。


「どこ行っちゃったのかしら」


人の波に押され、気が付いたらはぐれてしまっていた。困ったわ、こういうときケータイがないと不便ね。新ちゃんに買ってあげないと…。

辺りを見渡してみても当然見つかるはずもなく。
こんなときのために万が一はぐれたらこの鳥居のところ、と場所を決めはしたのだけど、そこまでたどり着くのも一苦労だ。

一度出て、外から行こう。
そう思い階段を下り人の波に乗る。


「志村?」
「あ、土方くん!偶然ね。
あけましておめでとう、今年もよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」


さっきのおみくじは大吉。恋愛のところには“焦らず待てば実る”。
さっそくいいことがあった!


「誰かと待ち合わせ?」
「いや、一緒に来たんだが、はぐれちまって。
この先の鳥居で落ち合うことにした」
「そうなの。
私も、弟と来たんだけどはぐれちゃって、鳥居で待とうと思って」
「この人じゃあな。
俺の後ろついて来い、少しは歩きやすいだろ」
「う、うん。
ありがとう」


やっぱり優しい人。土方くんの服を掴んで付いていく。それだけなのにすごくドキドキして、少しでも長くこの時間が続けばいいと思った。

だけど土方くんは迷わず止まらず、どんどんと進んでいく。とても頼もしい、だけれど、置いて行かれそうで。


「志村?」
「え?あ、ありがとう」


気が付けば鳥居に着いていた。慌てて手を離す。
恥ずかしくて視線を逸らすと、何か冷たい物が頬に触れる。


「あ、雪だ…!」
「本当だ」
「綺麗…」
「十四郎さん」


ガツン、と頭の中を撃たれたようにその声が響く。この声、この呼び方。前に聞いた──


「ミツバ」
「よかった、無事に会えて。
あ…ごめんなさい、お友達と一緒だったのね」
「さっきそこで会ったんだ。
志村…」
「あっ、
私は大丈夫、そこに弟がいたから」
「え?」
「それじゃあね。ありがとう」
「あっ、おい志村っ!」


土方くんと彼女──ミツバさんに背を向けて早足に歩く。
二人の傍に居られなくて、人混みに紛れた。
雪が溶けては消えてゆく。

大丈夫と離れたのは私。だって、これ以上見たくなかったの。私なんかよりずっと、ずっと…土方くんはもしかしたら、彼女のことが。

大吉なんて、嘘っぱち。


「──土方くん」


呼んでも返事はない。


つづく

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