ちいさな恋
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「できた!新ちゃんありがとう」
今日は2月13日、明日はバレンタインデーだ。
皆には強がっているけど、料理下手なのは自覚してる。だけど既製品じゃ味気ないし、特に今年は、上手に作りたいから。私とは違って料理上手な新ちゃんに手伝ってもらって、ちょっと形は歪だけど味はちゃんとしたトリュフができた。
新ちゃん再三「友チョコだけですよね、まさか本命なんていませんよね」と言われ、否定しつつも心の奥が疼いた。
「うん、いい感じ」
散々悩んで決めた金色のリボン。一人だけ違う、黒い箱。甘い物が苦手な彼に合わせてビターにした、一番上手くできたチョコ。
別に告白するわけでも何でもないけれど、本命チョコという事実にドキドキして、言わなければそんなの相手にはわからないのに緊張する。
「…貰ってくれるかな」
モテそうだもんな、土方くん。確か沖田くんと、面倒くさそうに溜め息を吐いていた気がする。
不安だけど。でも、頑張らなくちゃ。
心でそう呟いて電気を消した。
───────────────────────────…
予想通り、土方くんはモテモテ。しかもそれを全部断って、いつの間にか下駄箱やら机やらにあった物には溜め息。疲れてるみたい。
そんなのを見ちゃったら渡せなくて、私は神楽ちゃん達に友チョコをあげて、あっという間に帰りの時間。
放課後、先生に用事を頼まれて一人残った。皆先に帰るか部活へ行ったし、私も早く帰ろう。
「あら?土方く…」
「しっ!」
口を押さえられる。キョロキョロと辺りを見渡すと、安心したのか溜め息を吐いて手を離された。そして地面に座り込んだから、私も隣にしゃがんだ。
「やっと逃げてきたんだ」
「まあ、モテる男は大変ね」
「からかうな」
あ、今。
誰もいない。渡すなら…。迷惑だったら、持って帰ればいい。そうだわ、このまま渡さないなんて嫌。
大丈夫。ラッピングは上手くいった。料理は苦手だけど思いを込めて。
自分を落ち着かせてチョコの箱を差し出した。
「土方くん、これ」
「ん?」
「バレンタイン、作ってきたの。でも、迷惑だったら持って帰るわ」
「…ねぇのかと思った」
「え?」
「何でもねぇよ。貰う、サンキュー」
ああ、狡い。きゅうんと胸が鳴る。
「そういや作ったって言った?」
「そうよ。心配しなくても弟と作ったらちゃんと食べられるわよ、失礼ね」
「いや、そういうことじゃねぇけど」
「じゃあ何?」
「いや、別に…?」
珍しくハッキリしない彼にふうんと相槌を打つ。ああ、私って本当かわいげがない!
「あ、やべぇ部活!」
「大変。早く行かなきゃ」
「おう。じゃあな!」
「またね」
短い会話。だけど。
ルンルン気分の帰り道。浮かぶのはさっきの笑顔。
受け取ってくれた優越感、安心感、満足感。そして、嬉しさと幸せ。好き、なんて。実際には言えないけれど。
バイト終わり、スーパーに寄って帰る。どこを歩いても流石にカップルが多いわね。そんな中で、私は足を止めた。喧噪が遠くなる。…土方くん。
また、ミツバさんと居るの。ねぇ、あなたはそんな風に笑う人だった?
───あなたはやっぱり、あの人が好き?
踵を返して別の道を行く。大丈夫、ショックなんて受けてないわ。だって、別に彼のことなんてなんとも。恋愛ごっこだったのよ、…なんてそんな嘘。
「──わたしは、」
その先はのどに支えて出てこなくて。
周りは皆浮き足だって、楽しそうで、幸せそうで。そんななかで、私はきっと異色。牢獄よりもずっと残酷な場所。
「十四郎さん?どうかしたの?」
「いや…」
土方は少し首を傾げた。しかし、あまり深くは考えないことにして。
「何でもねェ」
つづく