×また子受け

□エンドロール
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「きっと、これがハッピーエンド何スよ」


満月の綺麗な夜、
相手の目を見ずに言葉を発する

明るい声と正反対に、
私の眉間には皺が寄り眉は情けなく垂れ下がる


今、自分はどんな顔をしているのだろう
相手はどんな顔をしているのだろう

普段から読みとれない彼の表情は、
より一層私を恐怖へと突き落とす


別に、禁断の恋なわけじゃない

年の差だって、職業だって、性別だって身分だって、
何一つタブーはない


それでも私達が今こうなっているのは、
私が弱いからであり、

彼が強いからである


人としても、武器としても

彼はあまりにも強すぎて、
それ故に私は時々、どうしようもなく泣きたくなる


どうして自分はこんなにも弱いのか


それでも彼は私を責めるでもなく、拒むでもなく、
ただ、黙って傍にいた

ただ、何でもないふりして護ってくれた


それが余計に辛かった


何でもないように私は笑ったけど、
何でもないように彼は抱いたけど、

本当は何もかもが間違っていた

何もかもが許された恋だけど、
何もかも私達は間違っていた

彼は自分が悪いと責めたから、
私は自分が憎かった

彼に幾ら貴方は悪くないと囁いても、
私にお前は悪くないと彼は笑うから


だから私は、別れを選ぶんだ


「きっと、昔に戻れる」


私達が愛し合う前に、
きっと戻れる


「だからハッピーエンドッス」


もう貴方も私も、傷つく必要はない
もう自分を責める必要はない


だから大丈夫、きっと笑えるんだ
ただの同志として、二人で


「………また子」


ずっと黙っていた彼が呟く


貴方らしくない、そんな弱々しい声


「はい、何スか、先輩」


そう言えば彼は泣きそうな顔した

狡い、今になってそんな顔


「また子、」


抱き締められて、抵抗はできなくて

振り払えるはずなのに、
体は重たくて


「どうか、拙者の傍から消えないでくれっ…」


いつもは悲しいくらい冷静なのに、

どうして今はそんなに余裕がない声を出す


「先輩…」


この愛しい背中に腕を回せば、

またこの苦しみは続くのに


万斉と呼べば、また互いに傷つくと知っているのに


「拙者がお前を護ってみせる…!」


彼が愛しくて、

私は弱くて


「せんぱい…



万斉っ…!」


だから精一杯の力で彼を抱き締めて、

精一杯の声で名前を呼んだ


「「 愛 し て る 」」


そうして私達はまた、


バッドエンドを選ぶんだ



(まだ終わりなんかじゃない)
(二人で最高のバッドエンドを作るんだ)


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