×また子受け

□だいすき
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今日は万斉の誕生日である

万斉と私は幼なじみであり、恋人だ


だから今日は2人で祝おうと何日も前から遊園地へ行く約束をしていた


それなのに…


(声が出ないとか…)


別に風邪ではない
咳も出ないし頭痛も腹痛もしないし、

熱だって私の平熱、36.8度を体温計は示す
万斉にはよくこども体温だなんだと馬鹿にされるが、
それでも私の平熱は人より少し高めのこの温度だ

いや、今そんなことはどうでもいい


今日のデート、どうしよう

せめて嗄れた声でも出てくれれば、
万斉に笑われるのを承知で話す

しかしどうしたものか、
今日の私の声はまるで人魚姫のように少しも音を発さない


実際、人魚姫の様に王子様に会うため、
何て可愛らしくて素敵な理由ならまだいいのだ

でも現実は…


(昨日のカラオケで歌いすぎたあああ)


高体連のおかけで今日は午前授業、
心置きなく遊べる

まあ通常日程でもサボって行くけど


おまけに天気は快晴、
暑すぎず寒すぎない心地よい気温

そんなデート日和なのに…!


とにかく制服を着て、
いつものように家の外で待っている万斉のもとへ駆けていく


「おはようでござる」


いつもは私から言う挨拶
それがないのを不審に思いながら万斉はこちらを向く

私はケータイに単純な四文字を打つ

するとピコン、と鳴る万斉のケータイ


「おはようって…口で言えばよいだろう」


訝しむ万斉に、私はケータイに素早く文字を打つ

ああ、嫌だと渋る万斉にLI●Eインストールしてもらってよかったッス


「声が出ない…?
風邪でもひいたのでござる…」


心配する万斉の言葉を遮ってピコン、
と軽快な音


「昨日カラオケで歌いすぎたって…

バカでござるな、また子は」


抗議しようとする私の腕を掴んで、
そのまま手を握る


「っ…」
「ま、そういうことなら遠慮はしないでござるよ」


遊園地についてからも万斉はケータイ片手に私と話をした
私は、本人には絶対言えないが、万斉の声が好きだ

感情が滲むことは少ないけれど、
落ち着いた艶のある低い声、優しくて温かい、大好きな声


握った手に力を入れる
すると握り替えしてくれる

それが幸せで、嬉しかった


(え、ここ入るッスか?)
「そうでござるよ」


平然と言ったが、私達が今居るのはお化け屋敷だ

コイツ、絶対私の反応見て面白がってる!!

だって別にホラー特別好きな訳じゃないもん、万斉!


服の裾を引っ張って戻るようお願いしてみるが無意味で

結局は入ることになるのだ


(やば、結構怖いかも)


手を握ってるからいいけど、
暗すぎて万斉が何処にいるかわからない


(ギャーー!?)


ゾンビ!棺の中からゾンビが!!


(っ、万斉っ!?)


手を離してしまった

万斉、何処、万斉っ──…


(!?)
「また子、大丈夫でござるか」


呼んでも声は出ないけど
こんな暗闇でもきっと、泣いてるのがばれてる

ああくそ、恥ずかしいッス


でも格好なんか構ってられなくて
万斉の腕に思い切り抱きついた

ぽん、と頭を撫でてくれる大きな手は、
温かくては安心する


.
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