×お妙

□ず る い ひ と
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 ずるいひと。
 私なんかに興味がないくせに優しくして。

 ずるいひと。
 勝手に私の心を奪っていって、知らん顔なんて。

 ずるいひと。
 いつもあなたは余裕で、私を子供扱いして。


 あなたは気まぐれな人だった。何の用もなく突然訪ねてきて、いつもは断るくせに時々お茶を飲んでいったりして。そうかと思ったら今度は上司の回収にすら来なくなって。代わりに来たあなたの部下は、別段忙しいわけでないと言っていたわ。お妙と呼んだと思ったら、今度は名前も呼んでくれなくなって。

 久しぶりに来てお茶を飲んで行くというからあれを話そうこれを話そうと思っていたのに、見上げた横顔は私ではなくどこか遠くを見ていて。この人の心はどこか別のところを見ているのだろうと思い始めたのはその頃で。
 それでも私は柄にもなくあなたを待ち続けた。そして何も訊かず、ただあなたの気まぐれにつきあってお茶をすすり、世間話をして笑ってた。否、訊けなかったのだ。あなたがあまりにも儚くて、私はあまりにも臆病で。

 あの人のことを知ったのは、しばらくしてからだった。あの女性は、唯一あなたが本当に愛した人なのだと思った。けれどあなたは私にそんな話は一つもしなかった。けれどそれに何の不満もなかった。あったのはただ一つ、その女性に対する醜い嫉妬だった。

 ねえ、あなたにとって私は何でしたか。

 きっと何でもない、数ある女の一人に過ぎないのだろうと思っていた。だって私たちは互いに、好きだとか愛してるだとかは一度も言ったことがなかった。だってそんな関係じゃなかったから。その証拠に、私はこの知らせを世間と同じようにテレビ越しで聞いたの。

 ねえ、あなたって本当にずるい人。
 私をおいて先にそっちへ行ってしまうなんて。

「姐さん、これ…」
「何かしら───」

 嗚呼、あなたって本当に


 いひと。
 (私には言わせてもくれないなんて)

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