×お妙
□好き、何て嘘と言って笑う君
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「あら、土方さん。こんにちは」
「近藤さん知らねぇか?」
「さぁ、今日は来てませんよ?」
と言いつつもいつもは後ろに気絶した近藤さんがいるのだが、
今日は本当にいないようだ
「そうか。じゃましたな」
「あ、土方さん」
「あ?」
「少し、あがって行きません?
ゴリラが来るかもしれませんし」
「…少し、な」
「ふふっ、どうぞ」
こうしてたまにがお妙の家にあがるようになったのは
いつからだったろうか
「そう言えば土方さん少し前髪伸びましたね」
「まぁな。切る暇ねぇんだよ」
「お仕事、たまにはお休みもらったらどうですか?」
「いんだよ、別に」
別に何か特別なことを話すわけでもなく、
他愛もない会話をする
───…あの人の思い人なのだから、と言い聞かせ
「アンタは近藤さんに気持ちが…」
「ないですね、絶対に」
「…まだ言い終わってねぇよ」
特別な関係でもなく、
ただの“知り合い”
それ以上にはなろうとしない
近藤さんの存在があるから、何て
自分のための言い訳
「そう言えば、
私、縁談が来てるんです」
「そうか」
何でもない風に話す妙と
何でもない風に聞く俺
「相手の方は、真面目そうな方で──…ああ、お見合い写真があるわ」
「いや、いい」
「そうですか?
自分の息子と一度会って欲しいってお客様が」
「…行くのか?」
「ええ、まぁ…一応は」
「…近藤さんが、煩そうだな」
「誰か好い人がいれば諦めてくれるでしょうけど」
「どうだかな、近藤さんのことだから」
「そうじゃなくて、お見合い相手ですよ」
「ああ…」
ズズッとお茶を啜る音の後に訪れる、
沈黙
「……」
「…もうこんな時間か」
「あら、本当ですね」
「じゃましたな」
「いえ。
私こそ、呼び止めちゃって」
俺が立ち上がると、お妙も立ち上がり、
門まで見送ってくれる
「それじゃぁな」
「はい」
数歩、歩き出す
「………好きです」
お妙のその言葉に、足を止めた
「土方さん、貴方が好きです」
何かをたえるような、すがるような、切ない声
思わず少し振り向く
すると、お妙が顔をあげ、俺をみて、言う
好き、何て嘘と言って笑う君
(その真意を知らないふりする俺は、卑怯者)
「ふふっ驚きました?」
「んなわけねぇだろ
…ああ、そうだ」
「何ですか?」
「見合いの日、いつだ?」
おわり