×お妙
□strawberry rain
1ページ/2ページ
真選組局長近藤勲は、
志村妙に惚れている
「お妙さァァァァんっ」
「触んなゴリラァァァァ!!」
そして毎日玉砕している
「…」
「あら、土方さん
こんにちは」
「そこに死んでるのは…」
「ゴリラです」
そして志村妙は、
真選組副長土方十四郎に惚れている
「ゴリラが目を覚ますまで、お茶でもどうぞ
さ、上がって?」
「いや、いい」
そして土方は
毎日妙の誘いを断った
「どうしてですか?
私は、そんなに魅力がないですか?」
「んなこと言ってねぇだろ」
「お茶くらい、いいじゃないですか」
「…仕事中だ」
頑なに、上がろうとはしなかった
それは、自分が慕う上司の思いがあるから
「───…否、そんなの言い訳か」
上がったら、
自分の気持ちを認めることになる気がする
「ほら、近藤さん帰るぞ」
「ん〜お妙さぁん」
「はぁ…ったく、アンタは」
だから土方は毎日ただ、
近藤を引き摺って帰るだけ
───────────…
「あら…雲行きが怪しくなってきたわ…」
洗濯物を取り込んで、
買い物を済ませて…
「…今日は、ゴミの回収が遅いわね」
ぽつぽつと、雨が降り始めた
「あら、卵が無いわ」
外はもう結構降ってるけど…
「でも、卵がないと…」
悩んで、
結局買いに行くことにした
「あら…さっきよりも酷くなってるわ」
「お妙さん、荷物持ちますよ
あ、…ブッ!?」
傘を差し、
死んでるゴリラを一蹴りして帰って行った
「あら…?」
家の直ぐ近く
傘も差さずに門に寄りかかっている人影
「土方さん」
近づきながら話しかけると
ずぶ濡れの土方さんがこっちに顔を少し向ける
その姿が何とも美しく、妖艶で
思わずくらりときた
「──…水も滴るいい男、とはよく言ったものね」
軽く笑うと土方さんは目を反らした
「…近藤さんが、何処にも居ねぇんだが」
「さぁ、どうしたんでしょうね」
「…そうか」
そのまま行ってしまおうとする背中の裾を掴む
「少し、上がっていきませんか?」
「……」
「こんな雨ですし
少しくらい、雨宿りしても」
ね?と首を傾げる
貴方の顔が近付いた
「ん───…」
目と閉じて、何れくらいそうしていただろう
無音の世界に、
君と二人、居る気がした
「──…土方さん」
「…雨のせいだ」
雨の中でお前が、
あまりに綺麗だったんだ
「ふふっ、今頃気づいたんですか?」
「ハッ」
「どうぞ、入って?」
「…誘惑」
「誘惑?
それは貴方もでしょう
男のくせに綺麗なんだから」
「んだよそれ//」
縁側の向こうに見える土砂降りの雨をみて、
妙は思い出したように呟いた
「いちご…」
「いちご?」
「いちごの花言葉、
誘惑ってあるんですよ」
「誘惑、か…」
喉を鳴らして土方は笑った
「いちごの雨、だな」
溢れ出す甘い感情も
今の二人の距離も
全て甘い雨のせいにした
strawberry rain
(あまい、あまい、誘惑の雨が降る)
「──…あ」
「どうした?」
タオルで髪をふきながら
土方は妙に聞いた
「いちごには、
幸福な家庭って意味もあるんですよ」
私達の未来ですね
と言って笑った妙と
顔をいちごの様に真っ赤にした土方は
それはそれは絵になっていた
.