×お妙

□好き、何て嘘だ
1ページ/2ページ



「晴れですねー!」
「あ?だから何だ」
「いやぁ…最近局長が沈んでいるもので、太陽の眩しさが」


そう、ここのところ近藤さんは元気がない

かと思うと急に立ち上がり、
屯所を出ていこうとする


「まぁ、姐さんが見合いするのが原因でしょうけど」
「…」
「今日なんかは特に、当日ですしね…いでっ!?
何で殴るんですか!?」
「るせぇ」


だから何だ
俺には関係のないことだ

「あの日」日程を聞いたのだって特に他意は無い


「それにしてもお腹空いたなぁ…」
「ったく仕方ねぇな
昼休憩にするぞ」


俺は山崎と一旦別れ、歩き出す


「素直じゃない人達だなぁ…」


─────────────…


「邪魔するぞ」


返事が無いのでいつもの様に庭へ向かう

別に会いに来た訳じゃない

ひょっとしたら近藤さんが抜け出して来ているかもしれないからだ


「土方さん…?」
「!」


振り向くと粧し込んだお妙が居た


「お久しぶり…ですね」
「…ああ」


綺麗だ、と出かかった声を飲み込んで無愛想に返す


「どうしたんですか?」
「いや、近藤さんが来てたら、困ると思って」
「あら、ご心配ありがとうございます
でも幸い、今日は来てませんよ」
「そうか」


沈黙が訪れる

普段なら居心地は悪くないが、
今日は駄目だ


「…今日、お見合いなんです」
「そうか」
「相手の方、真面目で、お金もあるし、
何より私を気に入って下さってて」
「…そうか」
「もう、お受けしようかなって」


プロポーズ、とお妙は小さく呟く

自分がどうしたいのかわからない

お妙がどうしてほしいのかわからない

否、本当はわかってる
ただ、

どうしたらいいのかが、わからないんだ


「…あら、そろそろ時間だわ」
「悪かったな、急に」
「いえ」


門までお送りしますよ、と言って

いつもの様に見送ってくれる


「それじゃあ、邪魔したな」
「いえ
それじゃあ、さよなら」


さよなら、

その言葉がやけに響いた


「土方さん…?」


そして気づいたら、
腕の中にお妙が居た


「あの…」
「悪ィ…好きだ」


謝ったのは、何故だろう

謝ったのは、誰にだろう

色んな感情が渦巻くなかで、
はっきりとわかったのは、

こいつが好きだということだけ


「嘘、じゃないですか…?」
「お前とはちげぇよ」
「…」
「好きだ」


微かにお妙が震えていることに気がつく

泣いてる…?


「お妙…?」
「き、ですっ…」


少し離して顔をみようとすると、
お妙が俺の胸に顔を埋める


「私もっ、
貴方が好きです…!」


フッ、と思わず笑うと、
お妙が顔を上げ俺を見る

その涙を拭いてやりながら、
言ってやる


好き、何て嘘だなんて言わせない
(その為に口を塞ぐ俺は卑怯者)


「前髪、切ったんですね」
「ああ」
「良くお似合いです」


少し背伸びをして、
土方さんの額に口づける


「好きです」


好き、と言って笑う君


おわり

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ