×お妙

□ラブレター
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きっと貴方との出会いは偶然で、



これはきっと必然だった



それでも望むのは、













桜が咲き誇る

薄桃色の花弁は
儚い夢の様にふわり踊っては

刹那、地に落ち埋もれる


夜桜は朝の光に消え
艶っぽさを隠し可愛らしく穏やかに微笑む


所詮は一夜限りの幻想


「あ…」
「ん…」


ばったり会ったのは煙草を燻らせた黒


「こんにちは」
「ああ」


当たり障りのない会話

特に親しくない二人

種類の違う黒髪を髪に靡かす

茶色がかったふんわりした黒髪、

艶やかな濃いさらりとした黒髪、


混ざらない色


「桜、綺麗ですね」
「そうだな」


青色の瞳に淡い桃色は幻想的で
吸い込まれそうになる

陽がいつもは鋭い彼を柔らかくする


「きれい…」
「ん」
「あ、いえ、桜が」
「…ああ」


携帯灰皿を取り、差し出す

持つようになったのは、
丁度この人を知った頃から


「どうぞ」
「おお、悪ィ
…仕事柄か?」
「ええ、まぁ
それに誰かさんみたいにマナーのなってない方もいらっしゃいますから」
「…悪かったな」
「ふふっ」


普段味わわない苦い味

昨夜の味が甦って体が火照る


「来年もお花見するんですか?」
「ああ、多分な」
「そしたら来年も賑やかになりそうですね」
「もう会うのは御免だ」
「ふふっ、きっと会いますよ」
「…だろうな」


自らの大将を思ったであろう途端に
翳る瞳、微かに揺らぐ


本当に綺麗な瞳だな、何て今は見つめていられない

思わず目をそらす


「───…妙」
「っ!」


ビクッと体も心も跳ねる

あの夜が甦る

前髪に触れられた手、
大きくて、骨張った筋肉のある温かい


ドクンドクンと心拍数が多くなる


体温が上がる、きっと今、赤い


「あ…悪ィ、桜、付いてたから」
「あ、あぁ、ありがとうございます」


視線が合う

今日、3秒以上見つめ合ったのは初めてじゃないだろうか

彼の手が頬に触れる

視線が外せない


「───…」


風が吹く

桜の香り、───…





「…じゃあ、な」
「…ええ」


すれ違うと香る、苦い

貴方の匂い、焼き付いている


「土方さん、」
「あ?」


顔だけで振り返り立ち止まる貴方

煩い鼓動をどうにか落ち着かせて、微笑む


「さよなら」


「さよなら」というラブレター


触れなかった唇、

共に消える記憶、

桜が散る頃、この思いも消えるだろう


「…さよなら、十四郎さん」


次会ったときには、
きっと普通に戻るの







携帯灰皿は、もう要らない

.
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