×お妙
□忘れるための恋だったのに
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よく晴れた、星が綺麗な冬の夜だった
「…お妙」
綺麗な銀色をしたその人は、
苦しそうに顔を歪めて呟いた
「悪ィ…」
そう言ってその人は去っていってしまった
私独り、雪が降りだした公園に置いて
「おいお前、何してんだ」
「失礼ですね、盗み聞きしてたんでしょう?」
「…したくてした訳じゃない」
そんなことを言いながらも忌々しい涙は止まらなくて
いくら後ろ姿でもきっとわかるだろう
「志村」
「…」
「おい、──…妙」
「っ…」
銀色のあの人と勝手に重ねて、
私は黒い服の彼に縋るように抱きついた
彼──…土方さんは私を抱き締めることはしなかった
けれど拒絶することもなかった
ただ静かに、優しく
私の頭を撫でてくれた
「なぁ、俺と付き合ってみねぇか」
「え…?」
そんな中で突然言われた台詞に、意味がわからず顔を見上げた
いまだに涙が零れつたっている私の頬を不器用に拭いながら彼は続けた
「どうせ忘れられなくて、苦しむんだろ
だったら俺を利用すればいい」
「そんな、利用するだなんて」
「俺のことは気にしなくていい
…俺だってお前のことが好きな訳じゃねぇんだ」
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「近藤さんの為だよ
アンタがそんなだと騒いで仕事もしねぇからな」
「でも…」
私は言葉につまった
自分でも最低な人間だと思った
けれど、嬉しいと言うのはおかしいかしら、安堵にも似た感情が沸いてきた
私が何も言わないのを見て、
土方さんは煙草を燻らし、紫煙を吐き出しにやりと笑った
「利害一致だな
ま、持ちつ持たれつで行こうぜ」
気が付いたら、
私の涙は止まっていた
──…あれから、もうすぐ1年が経つ
落葉を集め、庭で一人焚き火をする
「こんにちは、土方さん」
「おう」
「もう、チャイムくらい鳴らしたらどうですか」
「悪ィ」
全然悪いと思ってませんね、何て言ってみても本当は私も気にしていない
私が一人にして欲しいときはちゃんと一人にしてくれる
傍に居てほしかったらただ黙って隣に居てくれる
一人で居たいけど人恋しいときは背中合わせだったり、
不器用な優しさをくれたり
そういう、大人な人だった
「出来た」
「焼き芋か」
「はい♪
でも土方さんの分はありませんよ」
「え」
「ふふ、嘘です
はい、どうぞ」
「…どうも」
本当はちゃんと2つある
だけど、1つを半分に分けて渡すと何の躊躇いもなく受け取ってくれる
土方さんの分はないと言えば顔をしかめて、
そんな子供な人だった
「んー、美味しいですね」
「そうだな」
「そういえば、最近お会いしませんでしたけど、
出張でも行ってらしたんですか?」
「まあ、そんなとこだ」
食べ終わったら二人で縁側に座ってお茶を飲む
いつの間にかそれが日常になっていた
近藤さんのこともあって、極秘という関係ではあるけど
「秋は美味しいものが多くて困りますね」
「女にとっちゃな」
「土方さんは細いですよね」
そう言って隊服の上から腕を触ってみる
あれ、何だか…
「…み」
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