×お妙

□Thanks Birthday
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俺は、誕生日という日が何より嫌いだった













ああ、またか


目覚めた深夜の静かな部屋、
やけに冷静に、そんなことを考えた

額の汗を拭って煙草を吸う


嫌な夢を見た、
毎年必ず見る小さな悪夢


お前なんかが生きてていい訳ないだろ
早くこっちに墜ちて来いよ


そんなことを言われる夢

事実、そうなのかもしれない
俺なんかが生きてて、この世界にメリットはないのだ


馬鹿馬鹿しいと、自分でも思う
そんなこと、気にしたって仕方がないのに


煙草を灰皿に押し当て、横になる

まだ2時だ、眠り直そう
そしてこんな馬鹿げた感情、忘れてしまえ


自然と目が開いたのは、
午前5時のことだった

いい匂いだ
もう起きてるのか、あいつ


襖を開け、台所に音もなく近づく


「きゃっ!?

土方さんっ…もう、驚かせないで下さいよ」
「悪ィ」


後ろから腕を回して、
お妙の首もとに顔を埋める


「どうかなさったんですか?」
「…いや

何作ってんだ?」
「まだ出来てないんです、
本当はびっくりさせたかったんですけど…」


ガトーショコラ、と頬を赤くさせて答えた
それはいつもの黒い塊でなく、

少し形は悪いが、ちゃんとしたケーキだった


「土方さんの誕生日に練習したんです

甘さは、控えめにしてありますから」


金粉をまぶし、クリームを傍らに絞ると、
満足げにできた、と呟いた


「まだお料理できてませんけど、
さきに食べてみます?」
「ん」


期待した目、嫌いじゃない
口に入れられたそれは、甘い


「美味い」
「本当ですか?よかった」


嬉しそうにはしゃいで、
もう少しどうぞ、と口を開けるよう促される


「土方さん」
「あ?」
「お誕生日ありがとうございます」
「何だそれ、
普通おめでとう、だろ」
「だって土方さんあまりお目出度そうじゃないんですもの」


見透かされてたのか
まあ、別にいいけど


「それに、一年間無事生きてくださったんだもの、

ありがとうくらい、言いたいわ」
「…そうか」


照れ隠しにまた顔を埋める

気にすることなくお妙は続ける


「ねえ、もし生まれ変わりがあるのなら、
何になりたいですか?」


生まれ変わり、ね
信じてもねぇし、できれば御免被りたいが、


お前とまた会えるなら、
生まれ変わるのも悪くないな


Thanks Birthday



貴方とまた恋に落ちれるのなら、
私は何だってかまわない


そう言ったお前が無性に愛しくて
誕生日も好きだと思える、何て


窓の外では空が美しく色づきだしていた


20130505 HappyBirthday Toshiro

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