×お妙

□お昼寝てぃーたいむ
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「妙ちゃん本当にすまない…
この埋め合わせは、今度必ずするから!」
「いいのよ、気にしないで、九ちゃん」


久しぶりのお休み、
九ちゃんと出掛ける予定だったけど、
急に用事ができてしまったらしい

今日は万事屋もお仕事で、
神楽ちゃんも新ちゃんも居ない

おりょうもお仕事だし…


「何だか、急に暇になっちゃったわ…」


せっかくのお休み、天気は晴れ
暑すぎない気温が心地よい、爽やかな空気
そんなお出かけ日和に家で一日を過ごすなんて、
勿体ないわ


「…たまには一人で気ままに、ね」


それもいいかもしれない
誰に気を使うでもなく自分のペースで、のんびりと

時刻は午前7時半過ぎ、1日はまだ長い


─────────────────…


「あら、あんなところに美容室ができてる」


久しぶり町を歩いてみると、
ほんの少しの間なのに町は変化を見せる

馴染みだったお店が閉まっている
ご主人、調子が悪いのかしら

父上がよく立ち寄っていた居酒屋、
いつの間にネットカフェになったんだろう

あのお魚屋さん、いつ店員が変わったのだろう
馴染みの顔がない、慣れ親しんだ生まれ育った町なのに

思い出の店、思い出の町並み、温もり
変わってゆく、薄れてゆく、過去の面影

──何だか、どことなく胸がきゅうと苦しい


「まあ、綺麗な簪」


寂寥の念に浸っていたって仕方がない
ふと見ると素敵な簪が売られている
私好みの、派手すぎないささやかな愛らしさ


「たまには…あら?」


少し空気が変わる
嫌なものではなく、女性の浮き足立つ声
目をやると決して親しくはないけれど見覚えのある顔


「土方さん」
「…あ…志村、妙」


足を止め顔だけこちらを向けると、
少し考えてから私の名前を呟く

隊服を着ていないし、
辺りに隊士と思しき人も居ない


「こんにちは」
「ああ」
「今日はお仕事お休みですか?」
「ああ」
「まあ、奇遇ですね、私も何です」


口数の少ない無愛想な彼
でもこういう人は嫌いじゃない


「…あいつ等は、一緒じゃねぇのか」


体をこちらに向け煙草を消しながら言う

会話を続けてくれたのが妙に嬉しくて、
私は少し声を弾ませながら答える


「銀さん達ですか?
今日はお仕事で、皆居ないんですよ
九ちゃんも用事が入っちゃったみたいで…」
「そうか」
「土方さんも、お一人ですか?」
「ああ
久しぶりの休暇だが、特にやることもねぇしな」
「そうなんですそうなんですよね、
普段はお仕事ばかりだから、お休みになると何をしたらいいのか…」
「自宅なら家でのんびりってのも悪くねぇが、屯所じゃうるせぇしどうも仕事癖がついちまってる」
「あら、自宅は自宅でお出かけしたくなりますよ?
こんなにいいお天気ですもの」
「…まあ、それもそうだな」
「ふふ、土方さんはあまりキャバクラも行かれませんしね」
「…あの人だって別にそればっかりじゃねぇぞ」
「別に近藤さんの話なんてしてませんよ」


するすると紡ぎ出される言葉
もともと話すのは苦手な方ではないけれど、
何故だか今日は言葉が溢れてくる


「そういえば土方さんは趣味とかは?」
「…まあ、映画、かな」
「まあ、いいですね!
もしかしてこれから見に行かれるんですか?」
「ああ、何やってるか知らねぇが、
見に行ってみようと思ってる」
「そうですか
…私もご一緒して良いですか?」
「別に、いいけど…」
「ありがとうございます!
さっそく行きましょう?」


錆びていたかのように止まってしまっていた時の歯車
戻らない思い出、過去の記憶

私の心はそれでも少しワクワクした


「まあ、こんな道あったんですね」
「映画館行くにはこっちが近道なんだよ」
「へぇ、知らなかった
やっぱり警察の方はこういうことも知ってらっしゃるんですね」
「まあ
だが、あぶねぇから一人では通るなよ」
「ふふ、ご心配ありがとうございます」


まるで猫のようにさらりと迷うことなく進んで行く
頼もしいような、置いて行かれそうで怖いような


「着いたぞ」
「え、あ
本当、映画館何て久しぶり」
「あんまり好きじゃねぇか?」
「いえ、好きですよ
ただ、お仕事続きだったし、今のお仕事の前はそんな余裕もなかったですし」


言いながら今やっている映画を確認する
普通、女の子ならラブロマンスなんかに興味を持つのだろうけど


「あ、ペドロ2やってる」
「…好きなのか?」
「ええ、前回のは泣きました
子供向けだと思っていたけれど、今の大人にこそ見てほしい作品です

あ、土方さん見たことありませんか?」
「いや、見た
俺も同じことを思ったよ」
「まあ、本当ですか?
嬉しいです、周りにペドロ見ている人居なくて」
「…丁度いい時間だな
見るか」
「はい」


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