×お妙

□お昼寝てぃーたいむ
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「くそ、今回もやられたよ」
「どうぞ」
「悪ィな…」


今回も言い話だったわ、ペドロ
まさかあの女の子たち、ピンポンダッシュだけでなくペドロにあんな事までしていたなんて…

ふふ、それにしても鬼の副長さん、
意外と涙もろいのね

私に背を向けて泣くのがなんとなくかわいい


「悪いな
これ、洗って返すよ」
「まあ、そんな、いいんですよ」
「心配すんな、ちゃんと個別に洗うから」
「そんな、わざわざ…」
「ん、丁度昼時だな
飯でも食いに行くか?」
「ご一緒してよろしいんですか?」
「せっかくだから
アンタが嫌じゃなかったら」
「まあ、嬉しい!
それじゃあ、今度は私おすすめの場所にお連れします」
「あんま女っぽいところは勘弁してくれよ」


似た感性、普段は滅多に話さない、顔見知りの私達

そんな2人が偶然同じ日に、同じところを通って
そして、互いの時間を共有する

不思議で、心が弾む


「ここです」
「…こんな店あったのか」
「はい、昔からよく来るんですよ
女の子っぽくないでしょう?」
「俺はこっちの方がいいよ」


住宅街からも、商店街からも少しはずれた、
小さな定食屋

父上が昔、新ちゃんに内緒で一度だけ連れてきてくれたことがある

その味が大好きで、今でも時々立ち寄るのだ


「こんにちは」
「やあ、お妙ちゃん、いらっしゃい

おや、珍しいね、お連れ様が一緒なんて
お妙ちゃんの彼氏かい?」
「ふふ、おじさんたら、違いますよ
いつもの二つ、お願いします」


お客は私達を入れて5人、
静かな空間と、優しいおじさんの笑顔

大好きな空間、大好きな時


「いい雰囲気だな」
「そうでしょう?
誰にも、新ちゃんも知らない私の隠れ家なんです」
「いいのかよ、俺なんかに教えて」
「土方さんは特別です
口が堅そうだし
誰にも言わないで下さいね?」
「ああ、わかってるよ」
「約束」


小指を差し出すと餓鬼か、何て言いながらも小指を出してくれる

そんな優しさが好きだ


「定食二つ、お待たせしました」
「まあ、いい匂い
ありがとうございます」
「美味そうだな」
「はい、日替わりだから、
いつも何が食べられるかわからないんですよ」


いただきます、と手を合わせて箸を持つ

今日はタケノコご飯に鰹出汁のお吸い物、
アジの塩焼き、デザートにビワがついている
温かいご飯はタケノコの食感を確かに感じさせ、口の中に優しく広がる

鰹のいい香が嗅覚を刺激し、一口、味わえば心安らぐ和の美味しさ

焼き加減の丁度いいアジは、塩が味を主張しすぎることもない自然な味に舌も喜ぶ

みずみずしく輝く美味は甘くやわらかく幸せに浸らせてくれる爽やかさ

旬の食材をふんだんに使った、
絶品定食


「んー、美味しい
ね、土方さん」


舌鼓をうち、この美味しさを共感してもらおうと名前を呼ぶ

すると、いつものあの黄色いものはかかっていなくて


「まあ、珍しい
マヨネーズはかけないんですか?」
「ああ
ここの店は調味料をなるべく使わずに自然な味を引き出してるからな

…うまい」
「そうでしょう?
気に入って下さって嬉しいです!」


私はどちらかというと味付けをし過ぎない料理、
特に和食が好きだ

土方さんもきっとそうだろうと思ったから、
気に入ってくれてよかった


─────────────────…


「御馳走様でした」
「美味かったな」
「はい
本当にいいんですか?奢ってもらっちゃって」
「ああ、いい店教えてもらったしな」
「ふふ、それじゃあお言葉に甘えて
もしかしたらこのお店で会えるかもしれませんね」
「そうだな」


時間はまだ12時過ぎ

ゆっくりと流れる、休日の昼


「土方さん、このあとのご予定は?」
「特にはねぇかな」
「じゃあ1つお願いがあるんです」
「何だ?」
「一緒にお散歩しましょう?
普段通らないような、そんな静かでいい道」
「そんなこと言ってもな…
あー、お前知ってるかもしれねぇが、静かな場所なら」
「ふふ、案内お願いします」


後に着いて歩く

知らない道、知らない空気
さっきの定食屋の近くなのに、
見たことも歩いたこともない風景


「すごい、綺麗な道ですね」
「ああ、木や壁で陰になってるから、
夏でも涼しいんだよ」


誰も通らないような道、
でも汚くない綺麗な通りやすい小道

風が吹いても強くは当たらない、
日が強くても直接は当たらない、

何て静かな時間だろう…


「あ、猫、黒猫」


本当に猫も通る道なんだ


「あ、風鈴の音…
きれいですね」
「そうだな…」


ちりん、涼しい音

梅雨が来ると、それに少し遅れて夏が来る
一年なんてあっという間だ


「ここの公園、よく休憩に立ち寄るんだ」

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