×お妙

□ハマユウ
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常夜の闇、そこに咲く一輪の花──

月が昇りし時2人は出会い、

光の照るとき互いに離れ


一夜限りの約束、偽りの愛


真実など、探すも無駄なこと…



「十四郎さん、何を見ていらっしゃるの?」
「…お前の髪は綺麗だと思ってな」
「まあ、随分と下手な嘘でありんすなあ」
「妙」


ゆっくり抱き寄せると、女も体を預ける

男が静かに紫煙を吹き出す
月の綺麗な、穏やかな夜


「このまま時が止まればいいのに」
「お前も随分下手な嘘を吐くな」
「本心でありんす」
「なら一緒に来るか」
「戯れを」
「本気だ」
「夜が明ければまた帰ってしまいんしょう」
「だからお前も来れば良い」


向かい合って互いの瞳を見る
心の奥を見るように、探るように


「お前を連れ去りたい、ここから」
「十四郎さん…」
「俺と行こう、妙」


男が女の手を握り、2人は立ち上がる

戯れか、本心か…
本心だとしても、幸せになる保証などありもしない


「…あい」


小さく返事をする

俯いていた顔を上げ、強く握り返す

凛とした、決意の表情で   


「貴方を信じんす
何処までもついて行きんす、

何処か遠くへ」


月の光を逃れながら2人は行く

そして、月が眠り常夜が眠り朝日が上る頃
美しい一輪の花──花魁は姿を消す

吸い殻だけを僅かに残して、
一人の女として、生きてゆくのだ

たった一人、愛した男と共に


End
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