×お妙
□月見草
2ページ/3ページ
「あ」
屯所に戻って洗面所の鏡をフと見ると首筋に赤い痕が見える
気がつかなかった
こないだの女だろう
見えるところに痕を残すなと言ってるのに
「…あの顔はそういう意味か」
さっきまで一緒に居た女の顔を思い出す
本人は気づいていないだろうが、微かに表情が変わっていた
まあ、別段気にすることもないだろう
まだ未成年だが、ああいう店に勤めているのだから男のそういうところも知っているはずだ
「…どうすっかな」
少女が自分に好意を持っているのは薄々気づいている
しかし彼女は己の上司の思い人
それにアイツは遊びにするには勿体ない存在
「…悪ィな」
本気で女を抱けない今の自分にはその気持ちに応えてやることはできない
「少なくとも今は、な」
もしその時が来たら俺は──
「お、トシお帰り!」
「また店行ってたのか、アンタは…」
「今日もお妙さんは美しかったぞ!!」
──ああ、そうだな
月明かりのよく似合う美人な女だよ
.